非日常から日常へ。これで普通の生活を送れると思ったら… 戦場帰りの男子高校生が幸せを求めてもがく学園アクションコメディ【書評】
公開日:2025/10/11

心身を脅かされる極限状態を経験した人間にとって、平穏な日常は何よりも得がたく尊いものだ。生き延びること自体が生きる目的となっているような環境では、個人の感情や趣味嗜好はすべて後回しにせざるを得なくなる。
『戦地から帰ってきたタカシ君。普通に高校生活を送りたい』(安い芸:原作、紗和:漫画、千種みのり:キャラクター原案/主婦と生活社)は、そんな非日常から日常に戻ろうとする主人公が「普通」を求めてもがく、波瀾万丈の学園アクションコメディだ。
宇宙人による侵略戦争で戦地に赴いていた主人公の青年・四分咲タカシ。3年間の死線をくぐり抜け、ようやく終戦とともに軍を退いた彼が夢見ていたのは、なにげない日常とごく普通の高校生活。けれど、現実はそう甘くはなかった。ともに帰国した戦友ナタリーをはじめ、クセの強すぎる美少女たちに囲まれた学園生活は波乱だらけで、予期せぬバトルに次々と巻き込まれる毎日。普通の青春を楽しめないのは、戦場での日々を経てタカシ自身が変わってしまったからなのか。ひそかに思い悩みながらも、にぎやかな毎日の中で、タカシは忘れかけていた本来の自分を取り戻していく。
本作の見どころは、非日常から日常へと舞い戻った青年の葛藤が、重苦しい雰囲気を伴わず非常にコミカルに描かれている点だ。特筆すべきは、タカシを取り巻く魅力的なキャラクターたちの存在である。彼に好意を寄せる戦友、姉、幼なじみたち。彼女たちとタカシが織りなす軽妙なやりとりの数々は、読み手に日常に潜むささやかな幸福の尊さを思い出させてくれる。気心の知れた相手とのなにげない会話や静かな朝のひととき、安心して眠れる夜――。そうした小さな日常の断片が心を満たし、明日を生きる力を与えてくれるのだ。
さらに、タカシと彼を取り巻く女性たちの関係がどのように変化していくかももうひとつの見どころだ。アクションの緊張感と青春の甘酸っぱさ、その両方が詰まったストーリーを楽しめる。