人間をハトに置き換えたら予想外の反響が! 緻密なセリフ設計がクセになる4コマ会話劇【漫画家インタビュー】

マンガ

公開日:2025/10/16

 やさしいビジュアルのハトたちによる、ちょっぴりシュールでユーモラスな会話劇が楽しめる4コマ漫画『ハト』。

「工場」というエピソードでは、友人を亡くしたハトの思いが描かれる。

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 ある日、工場で働く一羽のハトのもとへ、見知らぬハトが訪ねてきた。どうやら、工場にある巨大なプレス機を使わせてほしいらしい。勝手に貸すわけにはいかないと断るが、訪ねてきたハトは、亡き友の遺品であるパソコンをどうしても処理したい、と切実に訴える。工場のハトはつい、「……今すぐ処理しましょう」と承諾してしまい――。

 登場するハトたちの考え方や行動原理が人間臭く描かれていて、その見た目とのギャップについ引き込まれると話題の本作は、Xを中心に人気が高まっており、3万以上のいいねが集まる投稿も。

『ハト』の4コマ漫画を3000本以上投稿している作者・ヤマグチ・ジロウ(@yamaguchi0p)さんに、創作のきっかけやこだわりについて語ってもらった。

人間を描くのが面倒になったので、ハトを描いてみることにした

ーー『ハト』を描こうと思ったきっかけや理由を教えてください。

 かねてより、4コマ漫画やコメディ系のショート漫画を中心に描いていました。初めは人間を題材にしていたのですが、ある時期、スランプというほどではないものの、人間を描いてもしっくりこない感覚が続いたことがありました。それでも、ネタ漫画のような作品を描きたい気持ちは残っていたため、「人間を描くのがめんどくさいからハトで描くことにした」という理由で描き始めたのがきっかけです。

 当初はネタの内容そのものというよりも、「ハトで描くことにした」という事実自体がウケたのだと思います。とはいえ、予想以上に反響があったので「こんなのでいいならいくらでも描けるぞ」と描き続けていたところ、いつのまにか今の形になっていました。我ながら恐ろしいですね。

ーー数ある動物の中でハトを選ばれたのはなぜなのでしょうか?

 何か物事を考えるときに、頭の中に自然と浮かんでくる単語ってありますよね。私の場合、昔からなぜか「ハト」という単語が出てくることが多いのです。先に述べた「人間が描けない時期」にも、この「ハト」という言葉が強く浮かんできたのが、ハトを描き始めた経緯です。

 余談ですが、子どもの頃、祖父が大きな缶入りの豆を買ってきて、庭にやってくるキジバトに餌をやっていました。実家の庭によくやってくるキジバトが巣を作って子育てをしていた様子を夏休みの絵日記に描いた記憶もあるのですが、『ハト』を描き始めてしばらくしてから、そのことをふと思い出したのです。もしかすると、深層心理の中にハトがいたのかもしれませんね。

ーーこだわった点や、「ここを見てほしい」というポイントはどこですか。

 こだわっているのは、セリフの言い回しです。絵を描く時間と同じくらい、セリフの細かいところを考えている気がします。余裕があるときにはXへの投稿を予約投稿にしているのですが、それをいったんキャンセルしてでも書き直したり、後日ニコニコ漫画にまとめをアップするまでにも直したりしています。絵を描き直すこともありますが、セリフ部分を直すことが圧倒的に多いですね。

 4コマ漫画ということもあり、セリフの量もある程度制限されてしまうので、どれだけ少ない分量で必要な情報を詰め込めるかということが必要で、「この展開にするなら何コマ目までにこの説明を詰め込まねば」といった感じで日々あれこれ悩んでおります。一方で「なんか1コマ余るなぁ」ということもしょっちゅうあります。

 内容に関しては、ある意味なんでもアリなやり口の漫画だと思っているので、こだわりというより、むしろどれほどふざけられるかに重点を置いている気がしますね。真正面から何かをするということがむずがゆくてできない性分なので、オーソドックスなネタでも、「どこかひとつでもふざけた部分を足せないか」ということを常に探しているような気がします。そもそも「ハトで描くことにした」という時点で、たいぶふざけていますからね。

ーー本作に登場するハトは、シンプルなフォルムながら、時に人間のように表情豊かに感じられます。工夫しているポイントや参考にされた作品はありますか?

 客観的に見ると、自分は動物のデフォルメが得意なのかなとなんとなく思っています。例えば、ちょろけんさんというビーバー型Vtuberのイラストを担当したりしています。

 とはいえ、動物は人間とは骨格がまったく違うので、描き慣れて今の形になるまでには時間がかかりましたね。以前、鶏の丸焼きの料理工程を見ているときに、鶏肉の全身が映った場面で「勉強になるなぁ」と見入っていたこともありました。ハトたちの表情に関しては、どうしてあんなに朴訥な顔に表情が生まれるのかが自分でも不思議でしょうがないですね。これは、先人たちの生み出した漫画表現の妙だと思います。

 思い返すと、小さい頃に『少年アシベ』(森下裕美/双葉社)のゴマちゃんや、サンリオキャラクターの「バッドばつ丸」の「グッドはな丸」のようなアザラシのキャラクターが出てくる作品が好きでよく真似して描いていたので、そこで自然と動物のデフォルメというのが身についたんじゃないかなと思います。

ーー『ハト』の4コマ漫画を3000本以上描かれてきた中で、特に気に入っているエピソードを教えてください。

 一番印象に残っているのは、スパイの回です。これはこの後も何度か登場するカモメの初登場回で、このエピソードをモチーフにしたTシャツのデザインも気に入っているので、そういう意味でもお気に入りです。

『ハト』の作品はよく「ハトである必要がない」と言われますが、このエピソードでは、自分たちの群れにカモメが混ざっていても意を介さない、ハトらしい飄々とした感じがあったり、ハトには意外とカラフルな種類もいるんだなということが分かったりと、珍しく「ハトである必要がある」回だと思います。

ーー今後の展望や目標を教えてください。

 現在、『ハト』は「日曜定休の1日2回更新」というスケジュールで描いています。これはもう生活の一部となりつつあるので、今後もずっと続けていければと思っています。また、もう少し収益性も上げたいので、先ほどお話したTシャツをはじめ、グッズのバリエーションを増やしていろいろ選んで楽しんでもらえるようにできればなと考えています。

 そういうふうに漫画とグッズの両方を充実させて、「いつでもハトがいるよ~!」という環境に読者の方々を引きずり込んでいけたら面白いかもしれませんね。街中でハトのTシャツを着ている人を意図せず偶然見かけたなんてことがあったら、きっと達成感を味わえることと思います。

ーー作品を楽しみにしている読者へメッセージをお願いします。

 皆さんいかがお過ごしでしょうか。最近、作品を読んだりリアクションをくれたりする方が増えてきたなと実感しております。ありがたいことです。

 これからも『ハト』の作品は増えていきます。ちょっと目を離した隙にとんでもない量になっているかもしれませんが、それでも怖がらずに読んで楽しんでいただければと思います。

 また、『ハト』の創作のほかにもさまざまな活動をしているので、ヤマグチ・ジロウとしても楽しんでいただけると幸いです。

取材・文=ネゴト / 糸野旬

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