『山の木、とどけ!』社会において不可欠な“見えない仕事”を見せて、伝えたい【編集者の顔が見てみたい!!】
公開日:2025/10/29
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年11月号からの転載です。
コルク代表・佐渡島庸平が気になる1冊の“裏方”に注目する連載「編集者の顔が見てみたい!!」。第4回目をご紹介します。

◎今月の編集者
テキサスブックセラーズ主宰 キッチンミノルさん
キッチンミノル●大学時代よりカメラを始め、写真家・杵島隆氏の薫陶を受け写真の道へ。『たいせつなぎゅうにゅう』(2021)発表を機に“しゃしん絵本作家”としての活動も開始する。『ひこうきがとぶまえに』はじめ著書多数。
本書は僕の立ち上げた出版社、テキサスブックセラーズから出している「しごと絵本」シリーズの第2弾です。
林業の絵本を作りたくて色々調べているうち、木を切る前にはまず山に道を造ることから始めなければならないことを知ったんです。その後、ある雑誌の仕事で林業会社「東京チェンソーズ」さんに取材する機会に恵まれて、どのように木を運ぶのかお尋ねするうち、すごく盛り上がったんですね。思い悩んでいた企画が動く予感がして、改めて絵本取材を申し込みました。何度も現場に足を運んで見学させてもらい、お話を伺い、作業の様子を撮らせていただきました。そうするうち次第に信頼関係ができて、皆さんのいい表情を写真に収めることができました。ちなみに、山に道を造るまでは2年かかったんですよ。子ども向けの絵本ではありますが、職業を切り口にしているので大人が読んでも引き込まれるのではないでしょうか。
僕は仕事をしている人の姿を撮ることが多く、好きなのですが、特に“見えない仕事”を(読者に)見せたい思いが強い。
このシリーズの第1弾では航空整備士という職業を取り上げました。僕たちは飛行機が飛ぶところは見えますが、その飛行機を整備する方たちがどんな仕事をしているのかは、なかなか見ることができません。林業も然り。そんな、一般的にあまり知られていないけど、社会において不可欠な“見えない仕事”を写真と文章で見せて、伝えたい。だけどそういう企画は出版社に提案しても通すのが難しいんです。ならばいっそ自分で出そうと個人出版社を創りました。そうしたら取材先の方々にも「必ず本にします」と堂々と言えますし。
制作・編集だけでなく営業に販売もしているので、本作りの全工程を自分で管理しています。これもまた本作りにおける“見えない仕事”。見えないことが見えてくるのは楽しいですね。
写真の力で林業という仕事の魅力を伝えてくる
今、家を建てようと考えている。目指すのは「住み始めた初日から、100年くらい住んでいると感じられるような家」だ。どんな台所にしよう、サウナも作りたい、材木はどれがいいのか……なんてことを考えつつ本屋をぶらついていたら、この表紙が飛び込んできた。子どもに向けて職業を紹介しているシリーズなのだが、写真が実に魅力的。絵本作家でカメラマンでもある方が作っているからか、写真とフォトグラファーで林業という仕事を視覚的、かつ迫力たっぷりに伝えてくる。“お仕事紹介本”はたくさんあるけれど、独自の切り口でアップデートしている内容だと感じた。
さどしま・ようへい●1979年生まれ。講談社勤務を経て、クリエイターのエージェント会社、コルクを創業。三田紀房、安野モヨコ、小山宙哉ら著名作家陣とエージェント契約を結び、作品編集、著作権管理、ファンコミュニティ形成・運営などを行う。

70年前に植えられた木が形を変えて、新しい机になるまでをひたすら追いかけた仕事絵本。臨場感に充ちた写真と温かみのある文章で、林業から家具職人まで木に携わる様々な職業人を紹介。巻末には詳しい解説が。
取材・文:皆川ちか
<第7回に続く>
