『虎に翼』に轟太一を登場させた理由。「LGBTQ+は歴史上ずっと存在したということを、朝ドラで描けてよかった」【フクチマミ×吉田恵里香対談】

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公開日:2025/10/16

 シリーズ累計35万部超のコミックエッセイ「おうち性教育はじめます」シリーズ。シリーズ初の児童書となる最新刊『こどもせいきょういくはじめます』は、「子どもが自分で読めるマンガだから、親から性教育の話をするのに抵抗があっても安心」と話題になっている。著者のひとりであり、現在17歳と14歳の子を育てるフクチマミさんと、2024年度放送のNHK連続テレビ小説『虎に翼』の脚本家で、5歳の子を育てる吉田恵里香さんの対談が実現! それぞれ性教育や人権というテーマで作品作りに取り組むお二人に、制作への向き合い方からエンタメを通してこれからの子どもたちへ伝えていきたいことを語っていただきました。

『虎に翼』のスピンオフドラマの放送が決定し、主人公・寅子の友人である、山田よねと轟太一の物語に期待が集まっている。吉田恵里香さんが、登場人物に込めた思いとは……。

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フクチ:『こどもせいきょういくはじめます』の制作にあたって、何を軸にして読者である子どもたちに伝えようかを、あらためて考えたんです。成長していく体について知る、自分を守る方法を知る……どれも大事なのですが、性教育を「自分と他者を大切にするための具体的な学び」と捉えると、「人は一人ひとり違うことを知る」に落ち着いていきました。あなたの隣にいる人は、あなたと同じに見えても、別の人間なんだよ。違う背景があったり、違うものを大事にしていたりするんだよ、と伝えたい。それが『虎に翼』に登場した、数々の背景を持った人物と重なるところがありました。

吉田:ありがとうございます。ドラマやエンターテインメントは、マジョリティに合わせて作られるところがあるので、登場するのもマジョリティに属する人が中心になってしまうところがあります。そうすると省かれたりこぼれ落ちたりする人がたくさんいる。私はここ数年、省かれてきた人たちの存在を誠実に描きたいと想いながら脚本を担当していて、『虎に翼』もそのひとつでした。

フクチ:私は同じく吉田さんが脚本を担当された『恋せぬふたり』も、とても好きなんです。主人公ふたりがともに、アロマンティック・アセクシュアル――他者に対して恋愛感情や性的惹かれを持たない性のあり方を生きていましたね。ドラマを通して、こうしたセクシュアリティがあることをはじめて知った、という人は多いと思います。

吉田:いないことにされている人たちを登場させると、理由を問われることが多いです。なぜ出さなければならないのか、と。

フクチ:それは漫画の世界でも感じます。そこにいるから、だけで十分だと思うんですけど……。

吉田:そうですよね。『虎に翼』の場合は、「理由は人権がテーマのドラマだからです!」と一言で解決したので、内容面に話題が移っていけたのが良かったです。放映期間が半年と長かったこともあり、なるべく多くの人を登場させて、“点”を残したいと思っていました。

フクチ:私のなかにも、『虎に翼』のいろんな人が“点”として残っていますよ。

吉田:点がないと“いないこと”にされたままで、この先もずっとそれがつづいていく。いつか光が当たるのかもしれないけど、それがいつかわからないし、どんどん先延ばしにされるばかりです。

フクチ:『虎に翼』の主人公の寅子らと共に法律を学んだ轟太一は、途中で同性愛者だということが視聴者にもわかってきます。本当は轟のセクシュアリティに早くから気づいていた人物がいますが、ある時期までは本人にもそのことを告げない……リアルだなぁと感じました。けど、SNSを中心にハレーションが起きましたね。「轟のことを異性愛者だと思っていたのに裏切られた」「無理やり性的マイノリティを登場させた」といったような声が多かったと思います。

吉田:同性愛者の男性が「はじめまして、ゲイです!」とみんなにセクシュアリティを知らせながら現れるなんてこと、現実世界ではありえないですよね。ドラマでも同じことです。隣にいる人のセクシュアリティは基本わからないものだし、本人が明言したくなければ、する必要もないものです。ハレーションが起きたのを見て、そうは考えない人たちが自分の想像以上に、一定数いるのだなとわかりました。LGBTQ+は令和になって突然出てきたものではなく、戦中戦後、いえ歴史上ずっと存在したということを、ドラマで描けてよかったです。

取材・文=三浦ゆえ 撮影=川しまゆうこ

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