「生理」を我慢することが“普通”という考えを変えていきたい。『虎に翼』寅子が生理で寝込むシーンに込めた思い【フクチマミ×吉田恵里香対談】

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公開日:2025/10/18

 シリーズ累計35万部超のコミックエッセイ「おうち性教育はじめます」シリーズ。シリーズ初の児童書となる最新刊『こどもせいきょういくはじめます』は、「子どもが自分で読めるマンガだから、親から性教育の話をするのに抵抗があっても安心」と話題になっている。著者のひとりであり、現在17歳と14歳の子を育てるフクチマミさんと、2024年度放送のNHK連続テレビ小説『虎に翼』の脚本家で、5歳の子を育てる吉田恵里香さんの対談が実現! それぞれ性教育や人権というテーマで作品作りに取り組むお二人に、制作への向き合い方からエンタメを通してこれからの子どもたちへ伝えていきたいことを語っていただきました。

“ないもの”とされてきた「生理」の痛みや抵抗感について今思うことをお聞きしました。

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フクチ:シリーズ第1弾の『おうち性教育はじめます 一番やさしい!防犯・SEX・命の伝え方』の制作をはじめたとき、上の子が10歳を過ぎたぐらいでした。そのときの私は「生理」という言葉をネットで調べるのもおそるおそるだったし、「セックス」という語を口にもできなかった。私自身が、性教育をほぼ受けてこなかった世代です。でも本の制作を通して、性の話にまず私が慣れ、娘にも伝えることができるようになりました。そうやって少しずつ積み重ねてきたものが、娘が15、6歳になったころつながったように感じました。ピルのことを相談してくれたので一緒にクリニックに行ったこともありますし、性教育をやっててよかったなと実感しました。私、吉田さんが脚本を手掛けられた『生理のおじさんとその娘』も楽しく拝見したんです。

吉田:ありがとうございます。『虎に翼』の前の作品ですが、実は生理については継続して書いていこうと思っているんです。

フクチ:高校生の花は、父と弟と3人暮らしで、その父親が生理用品メーカーに勤めている。しかも父親は「生理についてよく知ろう!」と呼びかける動画がバズって、“生理のおじさん”として人気者に……というストーリーですね。生理ってどうしても男性が蚊帳の外に置かれがちですが、うちでは娘が生理について学び、私が性教育について知るようになったあとは、夫がいる場でも生理の話をするようになりました。それが日常になるとすごく楽なんです。家庭の中で生理の話がタブーにならない、「健康」の話として話せる楽さや安心感がありました。

吉田:生理については、痛さや不自由さをがんばって耐えてきた女性がたくさんいたから、切り拓かれた道があると思う一方で、がんばって耐えてきた女性がたくさんいたから、我慢することが“普通”とされる社会になってしまった側面もあると思うんです。私はそこを、一つひとつ変えていきたいんですよ。

フクチ:『虎に翼』にも、主人公の寅子が生理痛で寝込んで授業に出られなかったり、大事なときに本領を発揮できなかったりというシーンがありましたね。生理はほとんどの女性にある現象なのに、ドラマなどでその描写をあまり見ない。これも“見えないことにされている”ものだなぁと感じました。

吉田:朝ドラは全国放送ですし、年齢も性別も幅広い方が観てくださるので、そこで生理を扱えたことは嬉しく思っています。そのうえで、私がいま気になっているのは、地域差です。地方ではティーンの子が産婦人科やレディースクリニックに行くハードルがまだまだ高くて、「お前の娘が、産婦人科に入るのを見たぞ」と噂されるという話を取材で聞いて、びっくりしました。

フクチ:都市部と地方では病院やクリニックの数の差が大きいという背景があるのでしょうけれど、それに加えて意識の差もありそうですね。婦人科に行く=妊娠したんだ、といったような。

吉田:その町にクリニックが1軒しかないのに周囲の大人がそんな感じだと、ティーンの子はどんなに困っていても受診しないでしょうね。都市部では隣の人がどんな理由でどこの病院に行ってるかを気にしないから、その環境に慣れていると「婦人科、行きましょう!」とつい言っちゃう。そのメッセージ自体は間違っていないのですが、行きたいのに行けない存在も忘れてはいけないなと注意しています。

取材・文=三浦ゆえ 撮影=川しまゆうこ

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