「世の中みんながあなたのママじゃない」ということをわかってほしい。我が子が“察してもらう待ち”な大人にならないように気をつけていること【フクチマミ×吉田恵里香対談】

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公開日:2025/10/21

 シリーズ累計35万部超のコミックエッセイ「おうち性教育はじめます」シリーズ。シリーズ初の児童書となる最新刊『こどもせいきょういくはじめます』は、「子どもが自分で読めるマンガだから、親から性教育の話をするのに抵抗があっても安心」と話題になっている。著者のひとりであり、現在17歳と14歳の子を育てるフクチマミさんと、2024年度放送のNHK連続テレビ小説『虎に翼』の脚本家で、5歳の子を育てる吉田恵里香さんの対談が実現! それぞれ性教育や人権というテーマで作品作りに取り組むお二人に、制作への向き合い方からエンタメを通してこれからの子どもたちへ伝えていきたいことを語っていただきました。

 いまの世の中を子どもが幸せに生きていくために、不安がつきないというおふたり。大切にしていることとは?

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フクチ:「人は一人ひとり違うことを知る」は、家族にも当てはまると思っています。親と子でも別々の人間、というのを、親の側がつい忘れそうになることってありませんか。

吉田:ありますね。察する文化が長らく続いてきたことが背景にあると思うんですよね。それも、男性のほうが察してもらう待ちな場合が多いと思います。私は子どもにも姪にも、「全部、口に出して言ってね!」と伝えています。「そうしないと、何をしてほしいのかわからないんだよ」と。

フクチ:私もちょうど、娘と似たような会話をしました。「親子だからって、脳みそつながってないからね。ちゃんと言葉で説明して」って。

吉田:子どもにはそう伝えつつ、大人が子どもの求めるものを察することは、むずかしくないですよね。特に小さいうちは、だいたい周りの大人はすべて言わなくてもわかってくれる。でも、世の中みんながあなたのママじゃないんだよ、どんどんわかってもらえなくなっていくんだよ、と知ってほしい。

フクチ:親子だからこそ、バウンダリーを大事にしたいと思っているんです。乳幼児期はどうしても親子一体でいることが多いのですが、そこから徐々にバウンダリーをはっきりさせていく。でも、むずかしいんですよね。子どもが決めたことなのに、その選択を信じられなかったり、「こっちのほうがあなたにとって幸せよ」と違う選択肢を押し付けようとしたり。それに反発できる子もいる一方で、おとなしく聞いちゃう子もいますからね。

吉田:私も子どもに対してどこまで口を出すかは、日々悩んでいるところです。この先に待っている小学校、中学校の選択。その先の選択もたくさんあります。周囲の人に聞くと「小学校から私立に行かせたほうがいい」と言ってくる人も多くて、何を選択するか気持ちが揺れるわけです。

フクチ:進路を一度決めちゃうと、この学校と合わなかったとわかっても、そのあとで変えにくいんですよね。学校は同質性の高い集団なので、合わないと本当につらい。だからこそ、親も悩みます。

吉田:私、すぐドリルを買っちゃう癖があるんですよ。

フクチ:それは、どんなときに?

吉田:焦りを感じたときです。たとえば最近だと、子どもが文字に興味を持ち始めて練習を始めました。「く」や「し」といった簡単な平がなを書けるようになって、最初はそれだけで満足でした。ですが、同い年の知り合いの子どもが、平がなを全部書けるようになったと聞いて焦ってしまいました。焦るものではないと必死にこらえつつ、ドリルを買って本気でこちらも向き合ってやらせなきゃと思っちゃう。でも買った後で「強制すべきことじゃない」と思い直して、結局悩んでやめる……みたいなことの繰り返し。日の目を見ないドリルたちがいっぱいあります。

フクチ:わかります。私もそうでした。

吉田:やらせないとあとで後悔しそうだし、やらせると焦りが募る。子どもにとっていいバランスを、親が日々選択していくしかないですよね。「子どもって興味を持てば30分で覚えるよ!」と言われるけど、その興味がいつやってくるのかわからない。興味を持たせるための機会作りをどうするか日々試行錯誤しています。

フクチ:親が焦らされる要素は、世の中にいっぱいあるんですよね。親の不安は大きなものだと思います。この子がいまの世の中で幸せに生きていくためにはどうすればいいかが、以前よりもわかりにくくなっている。そこから、生きるためのアドバンテージをこの子に与えてあげたいという気持ちになります。

吉田:最近は落ち着きましたが、もうひとつ、不安になると買っちゃうものに、育児書もありました。役に立つ情報もある一方で、ときにすごく前時代的な内容の本もあって驚かされます。「女の子はお世話好きで成熟するのが早い。どんどん手伝いをさせよう」という横に「男の子はいつまでも甘えん坊だから褒めて伸ばそう」といったことが書いてあったりする。教育方針を決めるのは親自身です。ですが、周りに相談する人があまりいないお母さんやお父さんがこうした本を手に取ったときに、それが前時代的かそうじゃないかの判断ができない場合もある。出版物やコンテンツは人に影響を与えるし、間接的に子どもに影響があるものなので、作る側には責任がある。自分も本を出す立場なので、考えさせられます。

取材・文=三浦ゆえ 撮影=川しまゆうこ

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