「性的同意を取ることこそがセクシー」と感じられる漫画作品が増えている。エンタメ作品と性教育【フクチマミ×吉田恵里香対談】
公開日:2025/10/22

シリーズ累計35万部超のコミックエッセイ「おうち性教育はじめます」シリーズ。シリーズ初の児童書となる最新刊『こどもせいきょういくはじめます』は、「子どもが自分で読めるマンガだから、親から性教育の話をするのに抵抗があっても安心」と話題になっている。著者のひとりであり、現在17歳と14歳の子を育てるフクチマミさんと、2024年度放送のNHK連続テレビ小説『虎に翼』の脚本家で、5歳の子を育てる吉田恵里香さんの対談が実現! それぞれ性教育や人権というテーマで作品作りに取り組むお二人に、制作への向き合い方からエンタメを通してこれからの子どもたちへ伝えていきたいことを語っていただきました。
楽しく読んだり観てもらったりする物語の中に、人権や性教育、歴史をどう取り入れているのでしょうか。
フクチ:コンテンツ、特にエンタメはよくも悪くも人に大きく影響しますよね。ハリウッド映画好きな友人は、たくさん観るうちに、人権意識やマイノリティに対する感覚が自然と身についていたと話してくれました。楽しく読んだり観たりするほうが、人は学ぶんですよね。好奇心も刺激されるし。『虎に翼』も、観終わったあとにそこで描かれていた歴史上の出来事を、自分で調べてみるという人が多かったように思います。
吉田:作る側からすると、エンタメと社会への問題提起って濃度を選べるんですよね。私が学生に説明するときは“お出汁”のようなものだと説明しているんですけど。お出汁をフルで感じる和食のような作品があっていいし、フレンチみたいに食材の味以上にソースが主役で、そのソースにほんのりお出汁を感じられるぐらいの作品があってもいい。ただ、ゼロはダメだよという話をしています。『虎に翼』はお出汁がフルな和食でした。
フクチ:私は、性教育ってすごくエンタメと親和性が高いなと思っているんですよ。「おうち性教育~」とはまた別の、ストーリー漫画やドラマのなかに、それこそ出汁を効かせやすいのではないかと。
吉田:性的同意を取る、というのも物語に取り入れやすいですよね。そうしたことを、教科書や児童書とは違った形で知ることができるって、エンタメの強みだと思います。
フクチ:女性向けの漫画を中心に、お互いに同意を確認しあうことこそセクシーだというのが伝わってくるものも増えていると感じます。いままであった「同意なんて無粋」「雰囲気が壊れる」という思い込みを、崩してくれるもの。そうしたところから学んだり吸収したりするのって、素敵だと思うんですよね。
吉田:性教育でいうと、足し算を習ってないのに、いきなり難解な公式を解かされるのがいまの社会だと思うんですよ。いまさら「1+1は…?」というところからやり直したくても、それもむずかしい。でも、エンタメを通してならそれができる。「1+1は…?」を一度身につけたら、あっという間に理解できることも多いんです。それもあって、ここ数年は「間口を広く」をテーマに脚本を書いています。ニッチで専門的なことに絞れば完成度は絶対高まるんですが、入り口までたどり着いてくれる人がそもそも少ない。それよりも、あるテーマについて興味も知識も「0」の人が見て、「1」になってくれるというのを目指しています。知識「1」になったあとで見返すと、私が描ききれなかったことが見えてくるかもしれない。それでいいと思っています。

フクチ:性教育もこれまでは専門書が中心で、すごく詳しくて充実した内容なのだけど、一般の人はよほど問題意識が高くないと手に取らない、というものが多かったように思います。私も、間口を広くする、気軽に手に取れるということを意識して、「おうち~」シリーズをやってきました。描ききれない部分もあったり、表現が古くなったりするところも、当然あります。
吉田:伝えたいことが100だとすると、一度話しただけでは他者に本来の意図が20%ぐらいしか伝わらないと聞いたことがあります。一度言ってオシマイじゃダメなんだなと思いました。ひとつのことを、5回ぐらい繰り返し言っていかないといけない。「もうわかったよ」と言われても、きっと伝わっていない部分がある。私はここ5、6年ずっと「自分の人生の選択肢は自分で決める」をテーマにして書いてきました。これからも、つづくと思います。書いているうちに、伝わり方や伝わる層が変わってくるのを感じています。私自身にも、「もうちょっとこうすればよかった」というのがあるので、それを次の作品に活かしながら、何度も何度も言っていくということを、いま大事にしています。
フクチ:今後の作品も楽しみにしています!
取材・文=三浦ゆえ 撮影=川しまゆうこ