ねこまき最新刊! 真夜中だけ開くねこ喫茶店。擬人化したねことグルメが悩める人間を救うハートフル漫画【書評】
PR 公開日:2025/10/17

愛しのねことの幸せな日常を綴った作品、自由気ままなねことの暮らしをユーモラスに描いた作品など、ねこ漫画には様々な魅力があります。中でも、淡くほっこりとしたイラストでねこと人間の交流を描くねこまき(ミューズワーク)さんの作品は、癒やし度満点です。
ねこまきさんは、今年10周年を迎えた人気ねこ漫画『ねことじいちゃん』(KADOKAWA)の作者。実写映画化もされた同作は、妻に先立たれた大吉じいさんが愛猫のタマに翻弄されつつ、ささやかな幸せを噛みしめるという物語です。穏やかな暮らしを送るふたりは、せわしない日常を送る現代人に癒やしをくれます。
そんな、温かみのある作品を生み出してきた、ねこまきさん。このたび、「ねこ×グルメ」を題材にした新境地となるねこ漫画『深夜3時のくろねこ喫茶』(スターツ出版)が発売されました。
本作は、雑誌OZmagazineとWebサイト「OZmall」が新創刊したコミックエッセイのレーベル「OZcomics」の第1弾となる作品。オムニバス形式なので、隙間時間や就寝前に少しずつ読み進めることができます。
飼い主がいない間、ねこは普段とは違う行動をしているのではないか…。ねこと暮らす中で、ついそんな妄想が膨らんでしまうのは“ねこ飼いあるある”でしょう。本作は、そうした飼い主の想像も詰め込まれたような、ユニークでハートフルな作品です。
舞台は、とある町にある喫茶店。マスターのしずおは、人づきあいが苦手で無愛想ですが、3匹の飼いねこには優しく、彼がいれるコーヒーは絶品と大評判です。実はしずおの喫茶店には、不思議な秘密があります。しずおは気づいていませんが、人間たちが寝静まる真夜中になると、ねこが集うねこ喫茶になるのです。


ねこ喫茶のマスターを務めるのは、しずおの飼いねこ「くろ」。おじいちゃんねこの「くまごろう」や子ねこの「そら」といった同居ねこたちは従業員として、くろをサポートしています。
なんと二足歩行で人語もしゃべるねこたち。換毛期の悩みを語ったり、新入りねこの話をしたりと近況報告をしながら、おいしいコーヒーや料理を楽しんでいます。
そんな真夜中のねこ喫茶店には時々、悩みを抱えた人間がやってくることも。人間のお客さんは自ら訪れることもあれば、不思議な力で誘われることもあるようで――。
くろはそんな人間のお客さんにもおいしい料理を提供してもてなし、来店中のねこたちと一緒に、その人が抱える心のモヤモヤを聞き、癒やしていきます。



人間のお客さんは、年齢や性別もさまざま。子育て中の孤独に悩む母親や失恋した女性、仕事始めの月曜日が怖い社会人など、抱えている悩みもそれぞれです。だからこそ、自分と似たモヤモヤを抱えたお客さんがねこたちにケアされている姿を見ると、涙が溢れてきます。まるで、自分自身の重荷を軽くしてもらえたような気持ちになるのです。
生産性ばかりを求められる現代社会では、生きるために仕事をしているというよりも、仕事が暮らしのメインになっている人が多いかもしれません。そんな人に染みるのが、社会人・裕太の悩み。
入社以来、仕事のことばかり考えてきた裕太は趣味もなく、自分から仕事をとったら何が残るのだろうと思い続けていました。そんな裕太に、くろはおいしい餃子をふるまい、「明日は家でゴロゴロすればいい」と、何もせずに過ごす日の大切さを伝えます。



いろいろな娯楽で溢れているこの時代、“何もしない時間”を作ることは結構、難しいもの。隙間時間には無意識にスマホを開いてしまうし、休日だって「本当に休めているのだろうか」と思ってしまうような過ごし方をしていることもあります。
だからこそ、たまにはスマホなどの画面から目を離して、ねこのように日向ぼっこをしたり、風の音に耳を傾けたりして、“リアルな今”に浸ることも大切なのかもしれません。それはきっと、自分の心を本当に休ませてあげることに繋がるはず。
ねこの愛くるしさに癒やされるのはもちろんのこと、こんな風に自分だけでは気づけない、生きづらさや疲れを和らげるヒントを得られるのも本作の醍醐味だと言えるでしょう。
なお、本作は飯テロ漫画としての一面も。くろが作る料理は、ねこまきさんの持ち味である温かみあるタッチが存分に生かされており、どれもおいしそう! ひとつひとつの料理に、レシピが掲載されているので、自分にご褒美をあげたい時、自宅で再現してみてはいかがでしょうか。

忙しい毎日では、生きる上で大切な食事がおざなりになってしまうこともありますが、本作に触れ、心身共に疲れている時こそ「生きていくために食べよう」と強く思わされました。
「ねこ×グルメ」という最強タッグで、「もう頑張れない…」と泣く心の癒やし方を教えてくれる本作。限界を感じる一歩手前で手に取れたら、きっと明日の見え方が変わるでしょう。
文=古川諭香