憎しみに染まった妹を救え!血を墨として描いた絵を世に顕現させる絵師の純和風ファンタジー『描季師』【書評】

マンガ

PR 公開日:2025/10/17

描季師
描季師(鄭大河/少年画報社)

 絵には魂が宿る。そこには強靭な力がある。それを実感させられるコミックが『描季師(えがきし)』(鄭大河/少年画報社)。血を墨として描いた絵を世に顕現させるという”描季師”が主役の純和風ファンタジーだ。

 主人公は、描季師の養成所で暮らす少年・キキ。彼は妹を救うことだけを考え、日々修行に励んでいる。妹・カヤは、描季師として余りに強大な力を持つが故、その力を自分で制御できず、2年前、カヤの描いた絵がキキを襲うという事件が起きてしまった。それにしたって、先生たちが嫌がるカヤの腕を強引に切り落としてずっと“禁制の間”に縛り続けたことは、兄・キキからすれば、やり過ぎだと感じてならない。どうにか妹を助けることはできないものか。そんなある日、カヤを縛り付けている封印が弱まっていることを知ったキキは、妹を救おうとするのだが……。

 この世界は、奇々怪々、摩訶不思議。ページをめくるたびに、絵の細やかさ、迫力に圧倒され、気づけば、物語の世界に入り込んでいる自分に気づく。描かれる絵の美しさにハッと息を呑んだり、かと思えば、その無気味さに身を引きながら、思わず「こんなものに襲われたらひとたまりもない」と感じさせられたり。血を墨として描かれた絵は、人を救うこともあれば、人の命を奪うこともある。もちろんファンタジーではあるが、人が持つ思いの、その強力な力をこのコミックは体感させてくれる。

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 そんな世界の中で、キキは葛藤する。己の無力さ故に、妹を救い出せず、後悔に駆られるキキ。一心に妹のことを想い続けるその姿には心揺さぶられずにはいられない。かつては、ふたり仲良く楽しく絵を描く、どこにでもいる兄妹だった。キキが病に苦しんだ時は、カヤは必死になって絵を描き、自らの命を賭してまで、キキの病を絵で癒したこともあった。本当はカヤは優しい心を持っている女の子なのだ。そんなカヤの優しさを知るキキは、2年前の出来事を事故だと信じ、己の全てをかけて妹を救おうとする。だからこそ、物語の序盤、あまりに悲しい展開に胸が痛む。キキによって封印が解かれた時、カヤの心はすっかり憎しみに染まりきってしまっていたのだ。そして、絶望がふたりを分かち、カヤは姿をくらまし、キキはカヤを探すべく旅へ出ることになる。その中で出会うのは、絵を描くことで罪をなしてきた“咎描(とががき)”たち。絵で人の命を奪うことに喜びを感じる彼らとキキは対決せざるをえなくなる。

 心優しきキキは、何を描き、咎描たちとどう戦うのか。そして、旅の中でキキはどのようにカヤと再会するのか。憎しみに染まった彼女の心を救うことなどできるのだろうか。このコミックを手にすればきっとあなたも、キキの戦いから目が離せなくなるはず。妹のことを第一に思う兄の葛藤の果てを、あなたも是非とも見届けてほしい。

文=アサトーミナミ

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