「一流なだけじゃダメ」観光客に“最高の一皿”を提供するため奮闘! 極上グルメ✕お仕事マンガ誕生『星なき世界の案内人』【書評】

マンガ

PR 公開日:2025/10/23

星なき世界の案内人
星なき世界の案内人(カルロ・ゼン:原作、初嘉屋一生:作画/講談社)

 食とは飽くなき探検だ。舌で巡るには、あまりにも世界は広い。若い頃はグルメを気取っていたが、最近になり「私って意外と“食”について知らないことだらけだな」と思うようになった。一流の料理とサービスを提供してくれる店を、少しずつ巡ってみようか――そんなことを考えていたときに出会ったのが、『星なき世界の案内人』(カルロ・ゼン:原作、初嘉屋一生:作画/講談社)だ。

星なき世界の案内人
星なき世界の案内人

 主人公の山中道次は、真面目なことだけが取り柄の青年。就職活動でまったく内定がもらえず、「自分には何もない」と嘆いていた彼は、偶然再会した先輩・佐藤に誘われ、グルメ専門のDMC(デスティネーション・マネージメント・カンパニー)で働き始める。DMCとは、顧客一人ひとりにオーダーメイドの旅体験を提供する仕事。世界中の「迷える食いしん坊」たちに、最高の食体験を届けるのが彼らのミッションだ。「一流なだけじゃダメ」というシビアな世界で、山中は“選ばれる側”になるため、プロの仕事を学んでいく。

星なき世界の案内人

 本作の魅力は、食と、仕事に対する情熱の両方が描かれている点にある。まずは食。作中には、神戸牛のコンソメスープ、マコガレイの昆布締めなど、通好みの料理が登場する。派手さはないが、どれも丁寧な仕込みと繊細な仕事が必要とされる品ばかり。素材選びから包丁の入れ方まで、料理の奥にある「手間と技」がしっかり描かれていて、「食べてみたい」と思わせる説得力がある。

星なき世界の案内人
星なき世界の案内人

 そして料理描写もさることながら、読んでいて強く印象に残るのは、仕事に向き合う人々の姿だ。DMCは、顧客の無茶なリクエストにも応える「なんでもあり」な現場。ひとつの要望を叶えるため、一人ひとりが自分の役割を全うし、チームとなって動いていく。交渉、下調べ、当日の手配。どんな一皿の裏にも、目に見えない労力が積み重なっている。新人の山中にとっては、想像以上に奥深い世界だ。

 社長から「最高のサービスとは何かを体験していない人間が、それを提供するのは難しい」と言われた彼は、“客”としての体験を命じられる。ところが、真面目さが仇となり、訪れた店で思わぬ失敗をしてしまう。自分の未熟さと向き合った山中は、「プロの仕事とは何か」を少しずつ理解していく。

星なき世界の案内人
星なき世界の案内人

 また、本作の世界には優しさが漂っている。相手の仕事に敬意を払う。ミスをしたら素直に謝る。そして謝罪をきっかけに、むしろ信頼が芽生えていく――そんな、当たり前のようで現実ではなかなか難しいやりとりが、この世界では重みを持って描かれる。私自身、ライターという職人的な仕事に携わっているからこそ、“人の技やこだわりに敬意を払う”という本作のメッセージには、胸が熱くなった。

『星なき世界の案内人』第1巻は10月23日発売。料理で食欲を刺激されつつ、「いい仕事ってなんだろう」と思いを巡らせたくなる本作。読後にはきっと、温かい食事を口にしたときのような、ほっとした気持ちになるはずだ。

文=倉本菜生

あわせて読みたい