「どす黒い感情は誰にでもある」? 家賃保証会社の管理(回収)担当者が語るマンガに共感必至【著者インタビュー】
公開日:2025/11/7

もし部屋の家賃が払えなくなったら、そのときは2つの選択肢しかない——。『出ていくか、払うか 家賃保証会社の憂鬱』(鶴屋なこみん、原案協力:0207/KADOKAWA)は、部屋の家賃を滞納した人の賃料を立て替え、その立て替え分を督促する家賃保証会社の管理(回収)担当者の仕事を追ったコミックエッセイだ。取り立てに向かうと契約者がご遺体になっていることもあれば、テレビでよく見る芸能人からひどい文句をぶつけられることも…。さまざまな理由で家賃を滞納する人たちのマンガを読んでいると、“一歩間違えれば自分も債務者になるのでは…”という恐怖が頭をかすめる。原案は「カクヨム」で家賃保証会社の実態を告白してきた0207さん。「過酷な業務によるストレスを解消するために書き始めた」という本人に、家賃を管理(回収)する仕事のディープな日常を聞いた。
※書籍発売当時の2023年以前のお話としてうかがっています。
——仕事での不満を解放するために「カクヨム」で書き始めたそうですね。
0207:はい。「日記をつけると、うつ病予防になる」と聞いて書き始めました。日記ではありませんが……チューハイを1日6本くらい飲みながら(笑)。うつ病にならなかったから、効果があったのかもしれません。でも、しんどいものはしんどいです。
——カクヨムでは、延滞客に対して、誰もが抱くであろう「どす黒い感情」が自分の中にあるとおっしゃっていました。人には話せないような感情や、それを抱える孤独感もあったのではないかと。
0207:どうでしょうか。友人には、そんな話をしても困るでしょうから、しませんけどね。友人も少ないですし……。カクヨムを読んでくれた方が「面白かった」ってコメントをしてくれるのは、純粋に嬉しかったです。
——2024年からは転職されています。今思えば、家賃保証会社の管理(回収)担当者ってどういう存在だったんでしょう。
0207:民間企業の単なる会社員です。
カクヨムを書くときのモチベーションは、9割が愚痴。でも1割は「家賃保証会社ばかりが悪いんじゃない」と伝えたい気持ちでした。
いつかどこかの家賃保証会社が盛大に「やらかす」と僕は思ってます。その発生源はどこか? 管理(回収)部門の可能性は大きいかなと。強引な取立・追い出し行為? 一部の会社が請求している「さすがに法外じゃね?」という額の、色々な名目の延滞金? わかりませんが、いずれ家賃保証業界が世間様から思いっきりぶっ叩かれると思ってます。かつてのサラ金みたいに。
その時、単純な「家賃保証会社=悪で加害者」「延滞客=かわいそうな被害者」の図式で語られてしまうのは、嫌だったのです。その側面を僕は否定しませんが、だからといってそんな単純な図式「だけ」なわけがないよ、と。
延滞客、不動産会社、生活保護の担当部署……その他、それぞれに問題はありませんか?と。その証拠となる見聞録を残したかったのです。消費者金融にいた頃、悪いことなんか何もしてないのにリストラされていく「かわいそうな」同僚たちをたくさん見たので。
——家は誰にとっても必要なものですよね。家賃保証会社の仕事は、人の生死を左右するような責任感のある重要な仕事だと、あらためて感じました。
0207:さすがに大袈裟過ぎる気がしますが……。では1つ「命」に関するお話をしましょう。
飼い猫を残したまま夜逃げした家族の話です。家賃滞納から、明渡訴訟を提起。「部屋を明渡しなさい」という判決を取得。そして明渡の催告時、室内は「引っ越し途中」といった感じで、子猫だけがいました。ちなみに「明渡の催告」は、裁判所の執行官が部屋を訪問して「◯月◯日に強制執行します」という告知を貼るセレモニーです。
それから3週間後に断行(強制執行)になったのですが、部屋の中で子猫は死んでいました。置いていかれたんですね。延滞客が夜逃げしようが破産しようが、好きにすればいいと僕は思っています。所詮、僕は会社員。僕の貯金が減るわけでもありませんし。ただ、人間社会の下らないトラブルに動物を巻き込むのは、ダメですよ。……薄っぺらな感情なのは自覚していますが、それでも、ね。
コミックエッセイには、色々なエピソードが描かれています。家賃保証会社のコミックエッセイというのは、たぶん他にないと思うので、読んでもらえたら嬉しいです。
取材・文=吉田あき
