認知症の人が見せる謎行動には理由がある! 理解に近づくヒントを描いた現役介護士の実体験コミックエッセイ【書評】

マンガ

公開日:2025/10/25

 コミックエッセイ『認知症の人、その本当の気持ち 意味わからん行動にも理由がある』(たっつん:原作、北川なつ:漫画/KADOKAWA)は、長年介護の現場で働いてきた現役介護士の実体験をもとに描かれたコミックエッセイだ。

 う○ちを手渡してくる人、ズボンをかぶって徘徊する人、何度片付けても部屋を散らかしてしまう人……。著者は、そうした行為を問題行動として処理しない。「この人にはどんな理由があるのだろう」と一度立ち止まり、本人の世界にできる限り寄り添おうとする。認知症によって記憶や判断力は失われたとしても、感情は消えていない。その感情を手がかりに相手の行動を理解しようとする姿勢が、作品全体から温かく伝わってくる。

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 本書は介護士たちのチームワークも描かれる。原因を探り、状況を共有し、最善の対応を模索する。できることが減っていく本人の苦しみに寄り添い、ほんの小さな変化でもスタッフ全員で喜び合う。そのひとつひとつの場面に、人の尊厳を守る仕事の尊さがにじむ。

 介護の現場は優しさや温かさだけで語れる場所ではない。怒り、悲しみ、そして無力感。理想と現実のはざまで職員たちは何度も立ち止まり、また歩き出す。著者は、目の前の一人に真剣に向き合うことをやめない。「厄介な人」として距離を取るのではなく、「その人の人生」として受け止めようとする。

 重くなりがちなテーマでありながら、作品には随所に笑いも含まれる。柔らかいタッチの画と語り口が、介護という厳しい現実をそっと包み込み、私たちの心を優しくほどいてくれる。

 介護の現場で働く人はもちろん、家族として支えているすべての人に手に取ってほしい。“寄り添う”とは何か。その本質を教えてくれる温かな一冊だ。

文=ネゴト / すずかん

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