サレ妻にもシタ妻にも共感――不倫によって人生が激変するふたりの女性を描いた物語『お宅の夫をもらえませんか?』【書評】

マンガ

公開日:2025/11/5

 パートナーに浮気された側を「サレ妻」、浮気をした側を「シタ妻」と呼ぶ言葉がSNSを中心に広まっている。だがその言葉の裏には、誰にも気づかれない孤独やすり減っていく心が隠れている。

 そんな現代の結婚観に真正面から向き合った作品が『お宅の夫をもらえませんか?』(みこまる:作画、いくたはな:原作/KADOKAWA)だ。ごく普通の主婦がママ友の夫と関係を持ってしまう。身近でリアリティのあるテーマを通して、家庭の中に潜む心の揺れを描いたヒューマンドラマである。

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 主人公・なな子は、高校時代からの恋人と結婚し、彼の実家で暮らし始める。だが、理想とは違い、待っていたのは義母の厳しい言葉や無関心な夫、そしてワンオペ育児の日々だった。「こんなはずじゃなかった」と思いながらも、なな子は家事と農作業に追われる毎日を送っていた。そんな中、少しでも自分の時間を持ちたいと始めたパート先のスーパーで、ママ友の夫・忍と出会う。久しぶりに「自分を見てくれる誰か」に出会ったことで、なな子の心は静かに揺れ始め、やがて越えてはいけない一線を越えてしまう。

 不倫の噂は地域に広まり、忍の妻・香織の耳にも届く。夫の相手がママ友だったと知った香織は、良妻の仮面を脱ぎ捨てて激しく怒りをあらわにする。その姿は決して悪としてではなく、誰の中にもある心の闇として映し出される。そしてふたりの女性は壊れていく家庭の中で、自分を取り戻そうともがいていく。

 本作は不倫を肯定する物語ではないが、必要とされたいという誰もが抱く切実な思いを通して、女性たちの心の現実を丁寧に描いている。

 結婚という制度の中で、愛とは何か、我慢とは何か、そして夫婦とはどのような関係なのかという問いを、私たちの胸に突きつけてくる。

文=ネゴト / すずかん

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