入社3年目テレビ局員によるエッセイ連載「テレビぺろぺろ」/第6回「“プロデューサー”の肩書きが後ろめたい!」

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公開日:2025/11/7

 入社3年目テレビ局員によるエッセイ連載「テレビぺろぺろ」/第6回「“プロデューサー”の肩書きが後ろめたい!」

テレビ東京入社3年目局員・牧島による、連載エッセイ。「新しくて面白いコンテンツ」を生み出すため、大好きなお笑いライブに日参し、企画書作成に奮闘する。これはそんな日常の記録――。

こんにちは。
テレビ東京の牧島俊介です。さて...。

今日は、私の虚像を点検したくって、付き合ってもらえないでしょうか?
ありがとう。

昨今は、テレビ局員がどんな虚像を作るかが、大事になってきたようだ。虚像とは、世間に見せるよそ行きの自分の姿。

あなたも、「◯◯プロデューサー、秋から新番組スタート!」なんて告知がSNSで流れてきて、「この人の作品だから見てみようかな」と思ったことがあるだろう。
まったく、タレントじゃないのに、と言いたくなってしまう。

タレントじゃないのに、と言いながら、私もまた虚像を気にしている。
TVerの再生回数が番組の命運を左右する時代、「私の作品だから」と見てくれる人が増えれば、それは大きな武器になる。

一方、「私の作品だから見ない」という人は、一人でも少なくあってほしい。〈虚像のリスク〉
「こいつ、いけすかないから見ない」と思われたら最悪だ。虚像のせいで!!

虚像のリスクが怖い。最高の虚像がほしい。
だからこそ、あなたを連れ立って点検を行うことにしたのです。

私の虚像に潜むリスクを探せ!

まずは、私がちょっぴり不安を感じている箇所から調べてみよう。

私はテレビ局員には珍しく、本業の傍ら、社外での執筆活動にも力を入れている。

「自分の番組を宣伝したい」「エッセイをきっかけに自分に興味を持ってもらい、番組を見てもらいたい」という本業への還元の意図もあれば、「テレビとは違う方法で表現活動をしたい」「テレビでは企画を選んでもらうまでは形にならないので、自分の考えをそのまま表現できる場がほしい」という自己実現の意図もある。

さらに、売れっ子プロデューサーになってからエッセイを担当する例はあっても、世の中に名前が浸透する前から執筆する例はおそらくない。成長過程そのものを応援してもらう、誰も経験したことがないキャリアの歩み方を試してみたいという実験心もある。そんな私に、執筆の場を与えてくださっているダ・ヴィンチWebの皆様には、本当に感謝しかない。

その甲斐あってか、ここ2、3ヶ月の間に「エッセイを読みました」と声をかけてもらう機会が増えた。エッセイを読んだ方から、DMで「一緒に番組企画を考えませんか?」というご連絡をいただくこともあった。文芸誌『すばる』10月号に寄稿させていただくご縁にもつながった。著名な作家の方々に混じってエッセイを書かせていただくなど、身に余る経験である。

「番組を見ました」より「エッセイを読みました」と声をかけていただくことの方が今は多い。執筆も大切にしている活動だから、もちろん喜ばしい。番組でもエッセイでも、どちらから私を見つけていただいても本望である。

だが、ここであなたは気づいたのではないか。何かがおかしい、と。
違和感は大体当たる。〈世の常〉
私も気づいてしまった。私の虚像には、重大なリスクが潜んでいる。

虚像リスク①:「実績と比べて背伸び感に映る危険」

誠に遺憾である。

テレビ東京の仕事こそが本業であり、その上で執筆を重ねているはずなのに、注目度が逆転すれば「地に足がついていない」と思われかねない。全くそのつもりはないのだが、「本業の実績がないのに文章での自己演出に余念のない、鼻持ちならぬ輩」なんて言われたっておかしくはない。

原因は明らかだ。本業面での私の成長をお見せできていないことにある。昨年、『ナキヨメ』という番組を担当してから、新企画を通せないまま1年が過ぎてしまった。

この虚像リスクを解消するには、次の番組を早く実現して爪痕を残すほかないだろう。テレビ局員としての成長過程を読者の皆様に応援してもらうはずが、停滞していては筋が通らない。

さらに、気づいてしまった

『ナキヨメ』を担当してから「若手プロデューサー」として紹介される場面が増えた。
取材や執筆のお声がけをいただくときも、他社の方との交流会に呼んでいただくときも、基本的に肩書きは「プロデューサー」。
プロデューサー職に憧れてテレビ局に入社した私としては、光栄極まりないことだ。

ただ、また私は気づいてしまった。

虚像リスク②:「虚像の成長が本当の『私』に及ぼす精神的負担」

誠に遺憾である。

テレビ局において、プロデューサーやディレクター、ADといった肩書きは、番組ごとに与えられる役割にすぎない。ある番組ではプロデューサーでも、別の番組ではディレクター、さらに別ではADということも珍しくない。自分の番組企画を通したとき、その番組内においてプロデューサーという役割になるのだ。

だが、『ナキヨメ』以後、新しい番組を立ち上げられずに1年が経過してしまった私が、「プロデューサー」として紹介され続けていいのか。本当の「私」は後ろめたさを感じている。

 入社3年目テレビ局員によるエッセイ連載「テレビぺろぺろ」/第6回「“プロデューサー”の肩書きが後ろめたい!」

〈感謝〉いい点検でした〈感激〉

どうも、ありがとう。
非常に有意義な点検ができたと思います。〈感謝〉

【点検結果大報告】
虚像リスク①「実績と比べて“背伸び感”に映る危険」
虚像リスク②「虚像の成長が本当の『私』に及ぼす精神的負担」
→【結論】本業で成果を上げる(=番組企画で結果を残す)しかない

……なんと味気ない結論だろうか。
「食べ過ぎはやめよう」と書いてあるダイエット本くらい味気ない。

「分かったよ! けど、番組企画を通すのは簡単なことじゃないんだよ!」
昨日までの私なら、優しいあなたに理不尽な怒りをぶつけていただろう。

しかし、今日の私は理不尽な怒りをぶつけない。むしろ、とても嬉しい気持ち。
点検に付き合ってくれたあなたに、真っ先に伝えたいニュースが飛び込んできたのだ。
次の番組企画がようやくできそうな状況になったのである。
入社以来、2年半かけて練り上げた、どうしてもやりたい企画。
「お笑い」の枠にとらわれない「笑い」を目指した、突き抜けたファンタジー。
詳細は追って、連載の場を借りてお伝えします! お楽しみに!

「私の虚像、きっと大丈夫!」ってこと!? 〈感激〉
本業で成果を上げるにはまたとないチャンスである。
この企画で世間が認めるインパクトを残せれば、私の虚像は確実に守られる。
エリア51の機密ばりに守られる!(^▽^)

牧島俊介●テレビ東京入社3年目を迎えた現役テレビ局員。高校時代に、お笑いコンビ「虹の黄昏」に出会い、衝撃を受ける。自ら企画した番組は、柴田理恵・マユリカ中谷出演のバラエティ番組『ナキヨメ』など。

<第7回に続く>

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