それは、駅にも、コンビニにもいた。すべての風景が不穏に見えてくる、日常に潜むホラーの種【書評】
公開日:2025/11/26

【怖い場面あり、苦手な人は閲覧注意!】
日常で時折ふと感じる違和感。「あの家のおばあさん、いつも外を見ているのはなぜだろう」「子どもの想像力は豊かだけれど、もしかすると見えているものはこの世のものではないのか」。そんな疑念は、考えれば考えるほど頭から離れなくなるものだ。
そんな日常のぼんやりとした不安を描いたホラー漫画が『不安の種*』(中山昌亮/秋田書店)。どの話も数ページで完結する短編オムニバス形式で構成されているのが特徴だ。舞台になるのは、心霊スポットや廃墟のような特別な場所ではなく、私たちが普段暮らしている家の中や通勤通学の帰り道など、日常に馴染んだ場所ばかり。どこにでもある風景だからこそ、その中で起こる違和感が強く心に残る。さらに各話の最後には「2024.札幌市」といった西暦と地名が添えられるのが、妙なリアリティを与えてくる。どこかで本当にあった出来事なのかもしれない。次は自分の身に降りかかるかもしれない——そんな恐怖がじんわりと残り続ける。
作画もまた、この作品の恐怖を際立たせる。電車や駅、住宅街といった何気ない日常の風景が細部までリアルに描かれているため、その中に現れる異物の存在は強烈なインパクトを放つ。幽霊や怪異の表情や奇怪な言動は、ページを閉じた後も脳裏に焼き付くほどの迫力がある。のっぺりとした不気味な表情は、日常生活に戻ってもふとした瞬間に思い出され、背筋がぞくりとする。
コンビニでの買い物や子どもを育てる日常、街角での何気ない出来事など、誰もが体験しうる場面を切り取りながら、その裏側に潜む怪異が描かれていく。1話が短いからこそ、もう1つだけ……と手を伸ばし、気がつけば次々にページをめくってしまう。恐怖を感じながらもやめられない、そんな中毒性が本作にはある。最新刊となる第9巻でも、この独特のテンポ感と不安感は健在だ。
非日常ではなく、日常そのものを舞台にしたホラーを味わいたい人にはピッタリの一冊だ。ページを閉じた後も心がざわつき続け、当たり前の風景すら恐ろしく見えてくるはずだ。
文=ネゴト / fumi
