取調室での火花散る心理戦に頭脳戦、演技合戦に酔うクライムミステリー。映画『爆弾』レビュー

ダ・ヴィンチ 今月号のコンテンツから

公開日:2025/11/24

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年12月号からの転載です。

爆弾
原作:呉 勝浩(講談社文庫) 監督:永井 聡 出演:山田裕貴、伊藤沙莉、染谷将太、渡部篤郎、佐藤二朗 2025年日本 137分 配給:ワーナー・ブラザース映画 10月31日より全国公開●街を切り裂く轟音と悲鳴、東京をまるごと恐怖に陥れる連続爆破事件。そのすべては、酔って逮捕されたスズキタゴサクの一言から始まった。霊感があると称し、事件を予告したのだ。次第に牙をむき始める怪物に、警視庁捜査一課の類家が真っ向勝負を挑む……。

『ダークナイト』のヒース・レジャー然り、『羊たちの沈黙』のアンソニー・ホプキンス然り。すぐれたクライム映画には、強烈な悪役キャラを体現した怪優の存在が欠かせない。映画『爆弾』の成功もまた、佐藤二朗の貢献なくしては考えられないだろう。

 些細な傷害事件で野方署に連行された冴えない中年男、自称スズキタゴサク。名前以外の記憶をなくしたと言い張るスズキは、刑事の等々力にとぼけた表情で呟く。「私、霊感だけは自信がありまして。10時ぴったり、秋葉原で何かあります」。酔っぱらいの戯言と等々力らがあきれるなか、秋葉原のビルが爆発。まさか、本物の霊能力者? さらなる爆破を予告する、前代未聞の被疑者の取り調べに乗り出したのは、警視庁捜査一課特殊犯係の類家と清宮だった……。

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 ミステリーランキング2冠に輝き、直木賞候補にも名を連ねた小説に『キャラクター』の永井監督が挑戦。刑事×重要参考人の謎解きゲームと東京全域の爆弾探しが同時進行する、ノンストップミステリーを完成させた。秋葉原では原作を大きく上回る規模の爆破シーンを用意し、冒頭から観客を鷲掴み。密室と広い東京、会話劇とアクション、シリアスとユーモアの対比も効かせ釘づけにする。

 取調室や電気街などリアリティを追求したセットやカメラワークからも永井組のこだわりが伝わるが、何より〝本気〟を感じるのが取調室シーンの順撮り。実力者ぞろいの俳優陣から、テクニックだけでは生まれないだろう凄みのある演技を引き出している。火花散る心理戦に頭脳戦、そして演技合戦に息を呑み、人間の内に潜む【爆弾】の恐怖に心が震える。

文:柴田メグミ

しばた・めぐみ●フリーランスライター。『韓国TVドラマガイド』『MYOJO』『CINEMA
SQUARE』などの雑誌のほか、映画情報サイト「シネマトゥデイ」にも寄稿。韓国料理、アジアンビューティに目がない。

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