付き合いかけの男性がある晩、急に自分の家へやってきた。ドアの向こうの超“汚部屋”を見られてしまい…【書評】
公開日:2025/11/7

貯金、整理整頓、時間の使い方、結婚など、自分自身を題材に笑いと学びに充ちた本を多数発表するコミックエッセイの名手・池田暁子さん。
彼女の代表作であるロングセラー、『片づけられない女のためのこんどこそ!片づける技術』(文藝春秋)がこのたび、新装版となって発売される。著者が自らの「汚部屋」を赤裸々にさらけ出した本書は、片づけ指南書であるのと同時に人生を、そして生活を再生させてゆく物語でもある。
舞台となる著者の部屋は、文字通り足の踏み場もない“汚部屋”だ。


物が積み上がり、床は見えず、どこに何があるのかも分からない。そんな「ゴミ箱部屋」に住む著者が、ある日ふと「このままではマズい」と決意するところから、物語は始まる。恋人どころか家族も招くことができないような、壮絶な部屋。そんな惨状を笑い飛ばしつつ、著者は“片づけられない自分”の正体を探る。
本作の大きな魅力は、著者自身の“リアルな汚部屋”体験をベースにしているところだろう。ありがちな理想論ではなく、「やる気はあるのに動けない」「これを捨てると後悔しそう」「掃除グッズを買って満足して終わる」……そんな人間くさい失敗が描かれているからこそ、読者は共感し、ときにくすっと笑いつつ、きっと自分の部屋を省みてしまう(まさに私がそうでした)。
こんどこそ片づく5つのステップ
物語のなかで著者は片づけの実践を通し、「5つのステップ」を発見していく。まずは“基地”を作り、動線を整え、台所から手をつけて必要なものを救出する、といった具合に。そして「お掃除7つ道具」で頑固な汚れに立ち向かう。こうして少しずつ部屋が変わっていく過程は、心の整理にも似ている。
特に印象的なのは、「汚部屋」は単に散らかった空間ではなく、“自分の思考や感情の混乱”の映し鏡であるという気づき。片づけとは、物を減らすことではなく、自分を知り、生活を取り戻す行為なのだ……と著者は次第に知ってゆく。


マンガとしてのテンポも抜群で、著者の自虐的なユーモアが、そこかしこで光る。
付き合いかけている男性がある晩、急に自分の家へやってきて、「汚部屋」を見られてしまったがゆえ撃沈する第1話を皮切りに、過去の自分を責めながらも前に進む姿がなんともたくましい。そして“床が見えた”瞬間の達成感といったら、ない。掃除のノウハウを伝授するというよりも、「片づけられない人を責めない」ことこそが、本作の最大の優しさであり、読者へのエールでもあると思う。



今回の新装版では、令和の生活感に合わせて加筆修正がなされ、ふりがなも追加されているため、子どもから大人まで手に取りやすい。物を捨てる基準やタイミングも、実例をふんだんに出して描かれているので、とても実用的だ。
本書は汚部屋から抜け出すための実用書であるのと同時に、“自分を許し、変えていく”ための自己啓発エッセイでもある。読み終えた後、あなたはきっとこう思っているはずだろう。
「よし、まずは床を見よう!」
その小さな一歩が、人生を整える第一歩になるのではないだろうか。
文=皆川ちか
