誰もが持っている満たされない心…平凡に暮らす妻たちがふとしたきっかけで禁断の恋に走る姿を描いた物語『恋するママ友たち 私以外も不倫してた』【書評】
公開日:2025/11/15

「不倫」と聞くと、多くの人が特別な出来事と思うかもしれない。けれど、もしそれがあなたのすぐ隣にある日常の延長線にあったとしたら。
『恋するママ友たち 私以外も不倫してた』(吉田いらこ/KADOKAWA)は、3人のママ友が、それぞれの事情を抱えながら禁断の恋に踏み出していく姿を描いた物語。
登場するのは、パート勤務の早紀、専業主婦の美穂、派遣社員の麻衣。子どもが幼稚園の頃からの仲で、どこにでもいるごく普通のママたちだ。彼女たちはかつて「不倫なんてドラマの中の話」と笑い合っていた。だがそれぞれの心には誰にも言えない孤独と疲れが溜まっていた。
仕事と育児の両立に悩み、つい子どもにきつく当たってしまう早紀。モラハラ夫に心をすり減らし、諦めの境地にいる美穂。子どもの不登校に苦しみ、自分を責める麻衣。誰もが不幸ではないけれど幸せでもない現実の中で、ふとした優しさに救われてしまう。「恋に落ちた」というよりも心の隙間を「埋められてしまった」のだ。
本作が胸に刺さるのは、不倫をドラマチックに描かないリアルさにある。ほんの少しの言葉や眼差し――たったそれだけで、彼女たちの日常が音を立てて崩れていく。
モラハラ夫に心をすり減らしていた美穂の「チャンスがあればまた不倫するかもしれない」という言葉は、罪悪感よりもむしろ虚しさを帯びている。夫が改心しても、いったん壊れた心のバランスは戻らない。修復された家庭の中でもなお感じる心の空白。それは現代の結婚や家族の実情を突きつけてくるようだ。
読後は、ふとしたきっかけで誰もがその一線を越えてしまうかもしれないという背筋が少し冷たくなるような感覚が残る。この物語は、不倫の是非を問うのではなく、誰もが持つ満たされない心を描いている。だからこそ他人事ではない。痛烈な問いかけが胸に響いてくる。
