毒舌な敏腕ドッグトレーナーの信条は“犬ではなく飼い主を変える”こと。犬と人の信頼関係を結び直すハートフルストーリー【書評】
公開日:2025/12/24

『DOG SIGNAL』(みやうち沙矢/KADOKAWA)は、犬と人との間にある“信頼”と“責任”を描いた漫画だ。心温まるストーリーでありながら、犬と共に生きることの「重さ」と向き合うきっかけをくれる。
ドッグトレーナーの丹羽眞一郎は、「犬をコントロールするのではなく、飼い主をトレーニングする」ことを信条としている。毒舌で商売っ気はないが、その実力は確かだ。本作は、彼に弟子入りした新米トレーナー・佐村未祐の視点を通して、トレーニング教室を訪れる犬と飼い主の課題に向き合う丹羽の姿を描いている。犬と飼い主に丁寧に向き合い、その絆を結び直すドッグトレーナーの物語だ。
本作を読み進めていくと、犬のしつけとは単なる「訓練」ではなく、犬と信頼関係の構築そのものなのだと気づかされる。犬の吠え癖や散歩中の引っ張り癖などは、人間から見れば“問題行動”に映るだろう。しかし、眞一郎の言葉に促され、犬の視点に立ってみると、犬が必死に発しているサインや、飼い主側の誤った関わり方が浮かび上がってくる。
例えば、第14巻に登場するシベリアン・ハスキーは、逃げると飼い主が追いかけてくることが楽しく、「名前を呼ばれる=遊びが始まる」と誤った学習をしていた。その結果、名前を呼ばれても飼い主のもとに戻ってこず、飼い主を疲弊させていたのだった。ハスキーと飼い主は、眞一郎が考えたプランで地道な練習を重ねていくことに。信頼関係を少しずつ結び直していく過程が、実践的な知識とともに丁寧に描かれている。
とりわけ、一連のトレーニングを終えたハスキーが見せる屈託のない笑顔は、忘れがたい。耳の角度や瞳の輝きまで生き生きと描かれた表情にも、ぜひ注目してほしい。
本作は、これから犬を迎えようとしている人にこそ読んでほしい一冊だ。命を預かることの重さと難しさ、そしてその先にある喜びと幸せの一端を、そっとのぞき見ることができるはずだ。
