瀧内公美さんが選んだ一冊とは?「谷川さんの言葉には、人を傷つけない、優しい距離感があります」

あの人と本の話 and more

公開日:2025/11/27

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年12月号からの転載です。

 以前から谷川俊太郎さんの詩が大好きという瀧内さん。コロナ禍の最中には、谷川さんの一編「生きる」のことをずっと考えていた。

「何か読んでいないと心が休まらなくて。谷川さんの詩はダイレクトに心に響きました」

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 そんなとき書店で本書を見つけた。

「タイトルの『星空』が素敵だなあと。私、富山の田舎で育ったので夜は真っ暗で。星空を見上げながら家路に着くのが好きでした」

 谷川さんの言葉は、「物事との距離感が絶妙」と瀧内さんは思う。

「人を絶対に傷つけない、優しい距離感なんです。この本の回答にも、それは表れています。何かを決めつけず、ご自身の思うことを書きながらも、読者が考えを深められるよう、余白を与えてくださっている」

 瀧内さんがとくに惹かれたのは。

「『人は、何をしに生まれてくるのですか』という質問への答えです。『人は何かをしに生まれてくるわけではありません。生きているのが楽しくて幸せだと思えるように生きる、そのために生まれて、生きているんです』。この境地に至るには、私はまだまだ修行が必要ですけど、生きるってこういう心持ちが大切なんだとハッとさせられました」

 瀧内さんは今、出演する舞台『シッダールタ』の幕開けを間近に控えている。この作品でも、「余白」が重要な役割を果たしている。

「本作は、青年シッダールタの〝自我の旅〟の物語です。人として大切なこととは何か。その大きな問いに対して、一つの答えを提示します。でもそこにはやはり余白があって、観る方に、いろんな想像を広げていただけると思います」

 瀧内さんが演じるのは、シッダールタが出会う高級娼婦・カマラーだ。

「カマラーは、シッダールタに愛を伝える存在です。一方で、カマラー自身、誰よりも愛を欲している。シッダールタと触れ合い、彼女にも変化が生まれます。そういう彼女の内面の変化は、演じがいがあります」

 シッダールタを演じる草彅剛さんとは、今回が初共演だ。

「草彅さんは本当に素晴らしい方です。お稽古場に入っていらしたときの第一声で、その場の温度がグッと上がる。一流の振る舞いってこういうことなんだと、日々勉強させていただいています。本作のラストには、〝救い〟があります。それを観る方に感じていただけるよう、草彅さんをはじめ、皆で〝シッダールタの旅〟を作っていければと思います」

取材・文:松井美緒 写真:TOWA
ヘアメイク:董冰 スタイリング:三田真一 
衣装協力:ドレス5万3900円(AKIRANAKA☎03-6379-4878)、ネックレス15万9500円、リング右手中指15万7300円、左手人差し指16万6100円(Hirotaka 表参道ヒルズ☎03-3478-1830)、その他スタイリスト私物

たきうち・くみ●1989年、富山県生まれ。2019年公開『火口のふたり』で第41回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞など、21年公開『由宇子の天秤』で第31回日本映画批評家大賞主演女優賞など、多くの賞を受賞する。近年の主な出演作に、映画『敵』『国宝』『宝島』『ふつうの子ども』、連続テレビ小説『あんぱん』など。

星空の谷川俊太郎質問箱
(谷川俊太郎/ほぼ日)1650円(税込)

『谷川俊太郎質問箱』の続編。「ほぼ日刊イトイ新聞」掲載分に、新たな書き下ろしを追加して編集。「仕事をしていて悲しくなる」「いちばんの美しい思い出は?」「叶わない恋をしてしまった」「寂しいときのおまじない」「幸せの見本は?」など64の質問を、谷川俊太郎に投げかける。名回答から見える詩人の世界。

舞台『シッダールタ
原作:ヘルマン・ヘッセ『シッダールタ』『デーミアン』(酒寄進一:訳/光文社古典新訳文庫)
作:長田育恵 演出:白井 晃 音楽:三宅 純 出演:草彅 剛、杉野遥亮、瀧内公美ほか 
東京公演:11月15日〜12月27日(世田谷パブリックシアター) 
兵庫公演:2026年1月10〜18日(兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール)
●世界の混沌の中で佇む一人の男は、思索の森に踏み入り、やがて古代インドのバラモンの子、シッダールタとなる。出会いと別れを繰り返し、シッダールタが悟りの境地で見た景色とは。

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