発売記念インタビュー『原画に学ぶアニメ作画 アニメ『アン・シャーリー』と土屋堅一の世界』

ダ・ヴィンチ本誌のご案内

公開日:2025/11/28

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年12月号からの転載です。

数々の名作アニメーションを手掛けてきたアニメーター土屋堅一氏の技術と思想を探る『原画に学ぶアニメ作画 アニメ『アン・シャーリー』と土屋堅一の世界』が10月17日に刊行。その発売を記念して、土屋氏に本書への想いを伺った。

―アニメ『アン・シャーリー』が9月末に最終回を迎えましたね。本作についての印象はいかがでしたか?

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「関わる前はちょっと敷居が高い文学的な作品なのかと思っていましたが、いざ向き合ってみたら、ハチャメチャなキャラクターがたくさん出てきて(笑)。振り返って考えてみると、エンターテインメントがすごい密度で固められている作品だなと感じました。それが本作の魅力でもあると思っています」

―アンの成長も本作の見どころのひとつでした。

「今回の本のために自分が描いた絵を整理していたのですが、幼少期のアンたちを見ていると、『アンってこんなに小さかったんだね』『こういうこともあったね』と、親戚のおじさんが子どもの成長に感動するみたいな気持ちになって(笑)。朝の連続テレビ小説で、子ども時代から物語が始まる作品があるじゃないですか。ああいった作品を観ている感覚と似ている部分があるかもしれません」

天真爛漫な幼少期のアンの魅力が伝わるワンシーン。
(C)Anne Shirley Production Committee

成熟した女性へと成長したアン。土屋さんも成長過程に思わずしみじみ。
(C)Anne Shirley Production Committee

―本書の制作を振り返ってみての感想は。

「アニメーターになりたいと思った出発点を思い返したり、自分の絵をあらためて見たりするなかで、いろいろな発見ができて、とてもよい機会をいただけたと思います。また、アニメーションには無い、本ならではの美点もあると気づきましたね。完成したアニメって、時間軸に沿って進行していくので、1カット1カットの秒数はかなり短くなってしまう。映像を止めたとしても、1カットがどうなっているのかはよく見えないと思います。一方でこのような本であれば、読む時間を自分でコントロールできるから、自分が見たいところを気が済むまで見ることができる。それがこの本の醍醐味だと思います」

―本書にはたくさんのカットが掲載されていますが、セレクトの基準は?

「第一には“絵の完成度”ですね。本書で紹介しているレイアウトカットは、本来であれば表に出ないもの。そのため、結構ラフな仕上がりのカットが少なくないんです。その中で比較的見ていただいて恥ずかしくないカットを選びました。第二に、物語にとって重要で視聴者の方が見たいであろうカット。あとは自分の思い入れのあるカットを中心に選んでいきました」

―本を制作するなかで、あらためて気が付いたことはありますか?

「自分が気に入っているカットを選ぼうとしたら、マシュウ(アンを引き取る兄妹の兄)をやたら選びがちだったんですよね。描いているときからマシュウってカッコいいなと思っていて。特に新聞を読んでいる横顔のカット。このあと突然彼が倒れてしまうカタルシス直前の何気ないカットですが、いい横顔が描けたな、と自分でも満足しています」

土屋さんお気に入りの、マシュウの横顔を描くワンシーン。
(C)Anne Shirley Production Committee

―本書には実際のレイアウト作業において「CLIP STUDIO PAINT」の魚眼パース機能を使ったカットの紹介など、かなり技術的なところも解説していますね。

「デジタル作画をはじめたばかりの方は、具体的な情報がまだ乏しいのではと。本書で紹介できたことは僅かと思いますが、少しでも参考になれば……。完成したアニメでは見ることができない、制作過程ならではの描線が残る絵をたくさん収録しましたので、アニメーションづくりに興味がある方は、ぜひ手に取ってみていただけると嬉しいです」

取材・文:中筋 啓

魅力的なキャラクターデザインのラフ画も多数収録!
(C)Anne Shirley Production Committee

つちや・けんいち●1967年生まれ。スタジオあんなぷる、ウォルト・ディズニー・アニメーション・ジャパンを経て、アンサー・スタジオでメインアニメーターとして活躍。これまで参加した主な作品は『The Tigger Movie』『君の名は。』『すずめの戸締まり』など。