奥さんは消えてほしい…独占欲と承認欲求が肥大化した結果、不倫という泥沼にハマってしまった女性の末路は?【書評】

マンガ

公開日:2025/11/26

彼の奥さんがシにますように 私の方が愛されてるの』(リアコミ:原作、mego:漫画/KADOKAWA)は、禁断の恋=不倫をテーマに、妻がいる男性の不倫相手となる女性の葛藤と心の揺れを繊細に描いた作品だ。「不倫は悪い」と頭ではわかっていても自制できない人間の弱さと欲望、そして愛の狂気が描かれている。

 主人公の雪奈は、小さな印刷会社に勤める新入社員。仕事に慣れず失敗を繰り返す日々のなか、彼女に優しく声をかけてくれたのは上司の岡崎だった。頼れる存在として心を許し、やがて恋に落ちていく雪奈。しかし岡崎にはすでに妻がいる。「いけない」とわかっていても、恋してしまった心は止められない。

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「奥さんとはもうすぐ別れる」「出会う順番を間違えただけ」岡崎の言葉は不倫男性がよく使う常套句にすぎない。だが、優しくされた記憶、必要とされた実感、愛されていると思いたい気持ち。そのすべてが、雪奈に「普通の恋愛」と錯覚させる。やがて彼女の中で、彼の奥さんという存在が「消えてほしい人間」へと変わっていく。

 タイトルの「彼の奥さんがシにますように」という言葉は一見すると狂気的だが、誰の心にも潜んでいる独占欲を言い表している。好きな人を手に入れたい、他の誰にも渡したくない――そんな純粋な思いが、歪んだ形で表れたものだ。

 だから雪奈は決して特別な存在ではなく、彼女の持った感情は誰にでも起こりうる「寂しさ」や「承認欲求」から生まれている。ほんの少し優しくされたことで心のバランスが崩れ、徐々に正しさの基準を見失っていく。

 愛とは何か。どこからが依存なのか。不倫というテーマを通して、人間の心の奥底に潜む欲望と脆さを浮き彫りにする。恋愛の裏側にある「業」を鋭く描いた作品だ。

文=ネゴト / すずかん

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