松岡さんの残した念と、残された側の“残念”を晴らすために【編集者の顔が見てみたい!!】
公開日:2025/12/1
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年12月号からの転載です。
◎今月の編集者
晶文社 編集部 江坂祐輔さん

えさか・ゆうすけ●2005年より春秋社にて編集に携わり、『17歳のための世界と日本の見方』より松岡正剛氏の担当編集者に。他担当作に宮野真生子・磯野真穂『急に具合が悪くなる』、山口祐加『世界自炊紀行』など。
松岡正剛さんは、私が以前勤めていた出版社時代から担当をしておりました。今年の2月に事務所代表の太田香保さんから「松岡が生前受けたロングインタビューを自伝として出版したい」とのご相談を受けたんです。それは朝日新聞で2024年3月に連載されたもので、松岡さんがその生い立ちから、これまであまり言及してこなかった自らの歴史についても語っている、まさに「自伝」と呼ぶにふさわしい内容でした。
紙面の都合上、割愛せざるを得なかった部分も含めて再編集し、一周忌となる今年8月に刊行しようということに。朝日新聞社も、聞き手を務めた山崎聡さんも快諾してくださいました。松岡さんと親交の深かったデザイナーの松田行正さん、内田優花さんをはじめ、各分野のプロフェッショナルが結集し、短期間で制作しました。
構成はインタビューの音声部分と松岡さんの文章を組み合わせる形となっています。著者の声(ヴォイス)と文体(テキスト)のよさを両方伝えるべく、メインとなるインタビューの他、未発表稿含むテキストを「断章」として挟んでいます。読みやすいよう天地の余白は逆にし、重要なキーワードは太字に。初めて松岡さんの著作に触れる方にとっては入門書ともなるように。表紙は白をベースにし、松岡さんの俳号“玄月”と対照となる趣向が凝らされています。
副題「ゴースト・イン・ザ・ブックス」は私の発案です。本書内で松岡さんが自身を「正体不明のゴースト」でありたいと語っておられますが、まさにその気配や痕跡が今もなお本の中に漂っている感じをだしたかった。それもこの本に限らず、世界中のありとあらゆる本に。それで「ブック」ではなく「ブックス」としたのです。
この本を作ることは、松岡さんの残した念と、残された側の私たちの“残念”を晴らす作業でもありました。ぜひ松岡さんにお見せして、感想をうかがいたいですね。
亡くなった著者の原稿をまとめる編集者の心境は
僕が非常に尊敬する松岡正剛さんの最初にして最後の自伝、そして遺作となった本書。編集者としてまず思ったのは、著者が亡くなった後にその人の本を出す際、どういう心持ちで原稿をまとめるのだろう……ということ。僕自身はまだそういう経験をしたことがないので、そこをうかがいたい。
生前の松岡さんへのロングインタビューを、どのような経緯でこうした形にまとめたのかも気になる。そしてこの副題「ゴースト・イン・ザ・ブックス」にもきっと何重もの意味が込められているはずだ。
さどしま・ようへい●1979年生まれ。講談社勤務を経て、クリエイターのエージェント会社、コルクを創業。三田紀房、安野モヨコ、小山宙哉ら著名作家陣とエージェント契約を結び、作品編集、著作権管理、ファンコミュニティ形成・運営などを行う。

『世界のほうがおもしろすぎた ゴースト・イン・ザ・ブックス』
(松岡正剛/晶文社)2090円(税込)
「生涯一編集者」として生きた著者への十数時間ものインタビューを完全再録。仕事にまつわる面はもちろん父との関係、少年時代から青春、壮年期、そして現在まで――個人的な部分も率直に語られた、松岡正剛唯一の自伝。
<第8回に続く>