読めばもっと知りたくなるお香の世界。その優しく奥深い魅力に出合った青年が届ける、癒やしの物語『京の都の香の路』【書評】

マンガ

公開日:2025/12/3

 音楽や料理などをテーマにした漫画や小説を読んでいると、音や味の想像が膨らみ、実際に聞いて味わっているような感覚を持つことがあるだろう。漫画『京の都の香の路』(霜月星良/KADOKAWA)は香り、つまり嗅覚に訴えかけてくる作品だ。京都を舞台に「お香」を中心に据えたヒューマンドラマが繰り広げられる。

 実家の医院を手伝うために医学部を目指していた瀬戸大輝は、2度目の受験も失敗し途方にくれていた。そこで偶然、お香店「薫風堂」の男主人・栄薫と出会ったことで彼の運命が動き出す。薫風堂に招かれた大輝は、受験勉強で疲れ果てた体をお香が癒やしてくれたことに驚き、そして薫は大輝の鋭い嗅覚に驚かされる。かくして大輝は、これまでのぼんやりと持っていた医者になるという目標から、お香を使ったセラピストを目指すという明確な夢を見つけ、薫のもとで修業することになる。

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 仲間外れを恐れて悪友との付き合いをやめられない女子高校生に勇気を持たせてあげる香り、自分の体臭を気にして後ろ向きになっている女性に自信を持たせてあげる香りなど、お香が使う人の背中を優しく押してくれるエピソードを読むと、私たちもまるでその香りから力を分けてもらった気分になり、そしてどこかリラックスした気持ちになっているはずだ。また、白檀や伽羅など聞いたことのあるものから丁子や竜脳といったあまり聞き慣れないものまでさまざまな種類のお香が登場するほか、西洋の香水との違いやそれらの正しい使い方など、生活に香りを上手に取り入れる方法を知れるのも大きな魅力である。

 繊細で奥深いお香の世界を優しく教えてくれる本作を読むと、これまであまり意識していなかった香りについてもっと知りたくなり、自分にぴったりの香りを探したくなるだろう。大輝のように人生を変える出合いが待っているかもしれない。

文=西改

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