『捕虜英雄』劣等種の捕虜と敵国の王女――この主従に目が離せない! 奴隷からの成り上がり英雄譚【書評】

マンガ

更新日:2025/11/28

 捕虜英雄 ~捨て駒にされた剣奴は敵国で成り上がる~
捕虜英雄 ~捨て駒にされた剣奴は敵国で成り上がる~(海空りく:原作、真じろう:漫画/白泉社)

「次にくる“主従”大賞2025」があれば、ぜひ1位を授与したい。

捕虜英雄 ~捨て駒にされた剣奴は敵国で成り上がる~』(海空りく:原作、真じろう:漫画/白泉社)は、本来出会うはずのなかった二人が、後に英雄譚として語られるという「ワクワクが止まらない」新時代のファンタジー漫画だ。

捨て駒として戦争に駆り出された少年が、敵国の王女に見いだされる

 捕虜英雄 ~捨て駒にされた剣奴は敵国で成り上がる~
 捕虜英雄 ~捨て駒にされた剣奴は敵国で成り上がる~

 魔力を持たないものは「劣等種」として奴隷生活を強いられるユースタシア魔法帝国。その国で魔術が使えないディノは、コロシアムの剣闘士として「殺すか殺されるか」という地獄のような生活を強いられていた。

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 17歳になったディノは戦争に駆り出される。負け戦の中、魔術師たちを無事に退避させるための捨て駒として、殿(しんがり)を務める役目だった。

 生きて帰れる可能性は0%。しかしその状況下でも、ディノは敵勢を圧倒し、見えないはずの魔術さえ躱すほどの獅子奮迅の戦いを見せる。

 捕虜英雄 ~捨て駒にされた剣奴は敵国で成り上がる~

 だが遂に力尽きてしまったところ手を差し伸べる者が。それが敵国、サンダリア国の王女ラフィーネであった。ラフィーネは敵ながら類稀なる戦いぶりを見せたディノを賞賛し、温かく迎え入れる。

 ディノは捕虜としてサンダリアへ。その強さから、ラフィーネの部下になってほしいと提案される。しかしディノは、すぐに受け入れることができない。

 サンダリアでは、誰もディノを差別しない。むしろその剣技を教えてほしいと乞う者までもおり、穏やかな気風の国だ。その上、王女であるラフィーネの部下という破格の待遇は、これまでの虫ケラのように扱われていた奴隷生活と比べれば、夢のような申し出だ。

 それでもディノは、葛藤する。

 その理由は、地獄の中で出会った唯一の光、親友・ロイドの存在で――。

奴隷として蔑まれてきた少年と敵国の王女、二人の主従関係から目が離せない

 捕虜英雄 ~捨て駒にされた剣奴は敵国で成り上がる~
 捕虜英雄 ~捨て駒にされた剣奴は敵国で成り上がる~

 本作の魅力は、なんと言ってもディノとラフィーネの“主従”関係ではないだろうか。誰にも認めてもらえず蔑まれ続けた奴隷を、初めて一人の人間として認めたのが、敵国の王女だったという状況。かなりドラマチックである。

 また、ラフィーネの「まっすぐさ」もいい。高貴さと聡明さを持ち合わせながらも情に厚く、なぜか抜けているところもあるキュートな彼女は、常にまっすぐな姿勢でディノと向き合う。

 一方でその凄惨な生い立ちから、「自分なんかがこんなに幸せでいいんだろうか……」と苦悩するディノには胸が締め付けられる。読者としては「ディノは全然悪くないじゃないか!」と抗議したいところだが、剣闘士として多くの命を殺めたのは事実。その懊悩は測り知れない。そんなディノに、心から寄り添おうとするラフィーネ。彼女の真の優しさに胸を打たれ、彼女の“剣”になりたいと希求するディノ……(尊い)。

 現時点では二人に恋愛感情が生まれるのか否か分からないが、そうじゃなくても、この二人の「主従」には惹き込まれる。今後の展開が気になるばかりだ。

 また作画の迫力にも言及しておきたい。アクションシーンの臨場感、迫力、そこはかとなく漂う「生々しさ」は、どこか『ベルセルク』のような空気を感じた。硬派なダークファンタジーというわけではないのだが、その空気感を内包しつつも、ライトノベルのような親しみやすさもあり、「万人受けするファンタジーの絶妙な温度感」がこの作品にはあるような気がするのだ。そこも本作の魅力の一つだろう。

 今後ますます話題沸騰しそうな本作。今からチェックしておこう。

文=雨野裾

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