お寺が楽しく賑やかに! 成り行きで住職になった青年と個性が強すぎる人々が繰り広げる笑いと人情の物語『極楽寺ひねもす日記』【書評】
公開日:2025/12/7

お寺の物語と聞くと、古臭くてちょっと取っ付きにくく感じるかもしれない。それは、お墓があって気軽に立ち寄るような場所ではないという意識と、そして実際にどんなことが行われている場所なのかをよく知らないからだ。そんな認識を大いに覆し、しかも笑いを届けてくれるのが『極楽寺ひねもす日記』(宮本福助/KADOKAWA)だ。
主人公・仁海は、代々続くお寺「極楽寺」の副住職。ある朝、住職の父親が「夢追い人になる」と書き置きを残して突然失踪。やむを得ず、初めてのひとり仕事の葬儀をなんとかこなしてお寺に帰ると、今度は夫を探すとの書き置きを残して母親もいなくなっていた。噂はすぐに広がりお寺の存続に不安を感じて集まった檀家さんたちをなんとかおさめるものの、過酷なワンオペお寺経営の過酷さに不安を感じていた。するとそこに、同級生で檀家の総大長の娘・千笑と、叔父・宗徳が現れてお寺を手伝ってくれることになるのだが、どちらも根っからの自由人だった――。
お寺を存続させていくためには檀家さんが不可欠で、経営やビジネスという視点が必要となっている現代のお寺事情を描いている点も本作の魅力だ。自由な性格でアイデアマンの宗徳はSNSでバズらせたり、謎解きイベントなどを開いたりして、結果的にお寺を話題にして人集めを成功させていく。とりあえず事の良し悪しは置いておいても、こんなに楽しいお寺があったらきっと足を運びたくなるだろう。
おおらかな性格の仁海とお寺を大切にしていきたい人々との交流は、終始ドタバタして笑えながら、どこか温かい気持ちにさせてくれる。こんな交流の場が地域にあったらいいなと思わせるハートフルなお寺コメディだ。
文=西改
