戦後の混沌の中で育む愛。死と隣り合わせの環境でふたりが紡ぐ、切ない関係を描いたラブストーリー『忠犬部下とツンデレ少尉』【書評】
公開日:2025/11/30

『忠犬部下とツンデレ少尉』(ハッピ〜ワニワニ/KADOKAWA)は、死と隣り合わせの過酷な状況下で関係を育む男性ふたりの絆を描いたラブストーリーだ。
ある大きな戦争が終結するも、いまだ混沌とした時代。主人公・クロは、独自の地位を持つ治安維持組織「ハルテン」の隊員のひとりだ。彼は任務中のとある出来事をきっかけに、強くて無愛想な上官・エギル少尉と体の関係を持ち始める。しだいに惹かれ合っていくふたりだったが、少尉にはクロを愛してはいけない秘密の理由があった——。
命がけの日々の中で、何度抱き合っても心は交わらない。それでもクロは、少尉の孤独な背中を見つめ続ける。いち隊員の努力では覆せないさまざまな困難、そして少尉の抱えたある奥深い事情に悩み苦しむ毎日。クロは少尉の複雑な事情を理解しながらも、決して距離を置こうとはせず、ただそばにいることを選んだ。彼の不器用な優しさが、すれ違い続けていたふたりの思いを静かに繋ぎ合わせていく。
本作の見どころは、苛烈な環境下で揺れ動くふたりの心の機微が丁寧に描かれているところだ。いつも飄々としていて食えない雰囲気をまとう少尉が、内心でクロに向ける思いの深さ。忠実な部下であるクロの、押し付けがましくない献身的な愛。物理的な距離は縮まっても、相手の心はなかなか見えてこないが、それでも互いを想う気持ちだけは確かに積み重なっていく。そんな切なくもどかしい関係が胸を打つ。
生命が脅かされる極限状態では人間の本質が試されるものだ。恐怖や緊張が続き、生存本能が優先される中では、日常では当たり前の他者への配慮や優しさが後回しになるのが現実である。それでもクロと少尉は、互いを想う心を手放さなかった。不器用で口下手なふたりが言葉ではなく行動で愛を伝え合う姿からは、人を想うことの尊さと、それを貫く覚悟が伝わってくる。理屈や打算を超えた純粋な愛の形を感じながらページをめくってほしい。
