幼い頃に仲が良かった友達がある事件の容疑者に。生まれの違いで道が分かれた女性たちの半生が伝えてくることは?【書評】
公開日:2025/12/10

※この記事はセンシティブな内容を含みます。ご了承の上、お読みください。
持てる者と持たざる者。『望まれて生まれてきたあなたへ』(やまもとりえ/KADOKAWA)は、現代社会における経済的格差の残酷さを私たちに突きつけるセミフィクションだ。
物語は新生児遺体遺棄事件のニュースから始まる。小児科医のまどかは、この事件の容疑者が小さい頃からの友人・のぞみだったことに衝撃を受ける。ふたりは小学校時代から仲が良く、いつも一緒に遊んでいた。しかし、まどかの母親は愛情が強すぎるがゆえに遊ぶ相手にも口を出しながら我が子が歩む道を半ば強引に決めていく。反面、のぞみは経済的に苦しい母子家庭のために将来を選べるような余裕はなく、まどかから母親のグチをきくたびに同調しながらも、いつも「いいなー」と言っていた。
育った家庭環境の違いは年齢を重ねるほどふたりが生きる世界に距離を作っていく。母親の制約はありながらも中学受験を乗り越え高校に進み、そして上京し大学に行ったまどかの人生は傍目からすると順調そのものだ。一方、のぞみは父親のわからない年の離れた妹の面倒を見ながら、妹の将来のためにコンビニバイトの毎日。まどかが高校生の時に久しぶりにのぞみに会ったとき、「親に反抗できることは望まれていること」という言葉が胸が刺さる。
また、本作はとてもシンプルな線で描かれていることに加え、表情を見せず後ろ姿で語る場面や空白を大きく使った「間」のコマがあることによって、逆に登場人物たちの心の機微と距離感がこれ以上ないほど伝わってくることに驚くだろう。
経済的格差が子どもの人生に大きな影響を与え、それが顕著になっている現代社会。この物語が訴えてくるのは、誰もが目を背けてはならない大切なメッセージである。
文=西改
