亡き夫の書いた書籍が、再出版をきっかけに「自費出版文化賞 特別賞」を受賞

文芸・カルチャー

公開日:2025/12/3

 みちのく朝日連峰山だより ―あるナチュラリストの小屋番日記から
みちのく朝日連峰山だより ―あるナチュラリストの小屋番日記から(西澤信雄 / 株式会社22世紀アート刊)

 山形県・朝日連峰で山小屋「朝日鉱泉ナチュラリストの家」を営みながら、人々と自然の営みを記録し続けた小屋番・西澤信雄さん(1948–2023)の著書『みちのく朝日連峰山だより ―あるナチュラリストの小屋番日記から』(株式会社22世紀アート刊)が、第28回 自費出版文化賞において応募総数805作品の中から、特別賞(個人誌部門)を受賞し、2025年11月8日に東京都・千代田区のアルカディア市ヶ谷にて行われた授賞式にて表彰式が行われた。

 本書は約40年前に刊行された後絶版となり、長らく人々の手から離れていた一冊。著者の逝去後、その言葉を未来に残したいと願った妻・西澤さんにより、電子書籍・POD版として再刊行され、今回の受賞へとつながった。

一度絶版となった夫の書籍をPOD・電子書籍によって再出版

 20代で脱サラし、家族とともに朝日連峰で山小屋を営み始めた著者の西澤信雄さん。厳しくも豊かな自然の中で生活しながら、地元の山人、山菜採りの名人、釣り人、旅人など、山に生きる人々の暮らしに深く魅了され、山小屋のオフシーズンである冬の季節に執筆に打ち込み、7冊の書籍を執筆。

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「この人たちの生き方は、記録しなければ消えてしまう」

 その思いから、西澤さんは山小屋での体験や人々との交流を綴った作品を次々に執筆し、生涯で7冊の本を残した。しかし、その多くは生前に大きな評価を受けることなく、一度は絶版となってしまった過去があった。

 著者の死去後、夫の思いを世に残す方法はないだろうかと考えた妻が、電子書籍とPOD(プリントバック)にて夫の作品の再出版を決意。

 再出版後で刊行された2024年2月に自費出版文化賞に応募し、今回の受賞へつながった。

著者の西澤信雄さん
著者の西澤信雄さん

著者妻のコメント「夫のために形として残したかった」

「夫が出会った山の人たちの知恵や、自然と共にある生き方は、消してはいけないものだと思いました。亡くなった後に残されたテープや文章は、夫が見た風景そのものでした。だからこそ、もう一度世の中に届けたいと感じたのです」

『みちのく朝日連峰山だより』は、失われかけた記録を再び世に送り出すための刊行となった。

授賞式でスピーチをする著者の妻、敬子さん
授賞式でスピーチをする著者の妻、敬子さん
受賞された証書を手に笑顔を見せる敬子さん
受賞された証書を手に笑顔を見せる敬子さん

 今回の受賞は、作品そのものだけでなく「家族の想いを世に残したい」という強い家族への愛情が評価されたものともいえる。

書籍について

みちのく朝日連峰山だより ― あるナチュラリストの小屋番日記から
みちのく朝日連峰山だより ― あるナチュラリストの小屋番日記から

 朝日川を望み、大朝日岳を正面に据える「朝日鉱泉ナチュラリストの家」は、自然を愛する人々が集う場として長く親しまれてきた山小屋。そこで小屋番を務めた著者が、山小屋での日々と訪れる人々の姿を綴った記録。

 登山経験に乏しかった著者は、当初は山小屋の営みに戸惑いながらも地元の山人や常連客との交流を通じて次第に山の暮らしになじんでいく。

「近くに葬儀屋ありますか」と真顔で尋ねる釣り人、家族の制止を振り切って山に入る85歳のキノコ採り、季節ごとに現れる山菜と茸の名人たち。

 彼らとの出会いや食や労働をめぐるやりとりは、あくまで日常の一場面として淡々と記されている。

 山小屋を訪れる人々の気質や、自然とともにある生活の感覚、そして山中での時間の流れがユーモアを交えながら丁寧に描かれ、朝日連峰に息づく暮らしの断片を記録した一冊だ。

 今回の書籍について担当者に話を聞いてみた。

――今回の書籍の狙いは?
都会から脱サラして26歳の若さで、電気も水道も車道もない山深い朝日連峰の宿で、山を生業とした先達や釣り人、登山者、動物を愛する人々から見聞きした話を40年前に執筆した作品です。販売当時は日の目を浴びることもなく一度は販売を辞めてしまった書籍でしたが、ご家族の熱い思いがきっかけで、改めて過去の記録を後世に伝える書籍として受賞に繋がりました。

――今回の書籍のイチオシは?
今回の受賞は、作家様のご家族による「再販」がきっかけとなり、受賞につながりました。
作家様ご家族の「夫の想いを後世に残したい」という熱い想いの出版が賞を取ることにより、多くの人の目に触れる機会に繋がったものです。

――読者(ユーザー)へのメッセージは?
出版社として、作家様の夢の実現をお手伝いできたことが非常に光栄です。
山形の山で実際にあった生活の「記録」として、ぜひお楽しみいただけますと幸いです。

【書籍情報】
書籍名:みちのく朝日連峰山だより ─ あるナチュラリストの小屋番日記から
著者:西澤信雄
販売価格:2310円(税込)
発行形態:電子書籍およびPOD(プリント・オン・デマンド)
発行元:株式会社22世紀アート