実写映画化で話題!『君の顔では泣けない』の作者最新作。いろんな愛の形を連作で描く『だから夜は明るい』【君嶋彼方 インタビュー】

ダ・ヴィンチ 今月号のコンテンツから

公開日:2026/1/9

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年1月号からの転載です。

男性同士の恋愛に限らず、いろいろな形の愛情を書いたんだと思うんです

 高校1年生の時に心と体が入れ替わったまま、15年間戻れない男女の特別な関係性を描いたデビュー作『君の顔では泣けない』(2021年)が実写映画化され、話題沸騰中の君嶋彼方。映画の仕上がりは、原作者も舌を巻くものだったという。

「関係者向けの最初の試写会で拝見する時に、“どうでしたか?”と聞かれても波風が立たないよう無難なコメントを用意していたんですが、感動で全てすっ飛びました。主演のお二人(※「坂平陸」役の芳根京子と「水村まなみ」役の髙橋海人)が役に入り込んでくださっていて、陸とまなみにはこんな感情があったんだ……と、映画を観たことで発見した部分がたくさんあったんです。本当に素晴らしい作品でした」

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 待望の最新刊『だから夜は明るい』は、全6編からなる自身初の連作短編集だ。デビューから間もない時期に発表し、単行本でも冒頭に置かれた一編「ヴァンパイアの朝食」が出発点となっている。

「別の短編で、男性同士の恋愛感情を書いていたんです。ただ、メインのテーマではなかったこともあり、物語を動かす一要素として使ってしまったことが自分の中で引っかかっていました。もう一度、作家としてちゃんと男性同士の恋愛に向き合ってみたかったというのが、1話目の『ヴァンパイアの朝食』を書いたきっかけでした」

 27歳の文也(「僕」)は、33歳の祥太と付き合って3年、都内マンションで同棲を始めて1年半になる。「恋愛」が「生活」にスライドしつつある2人の描写がまず、抜群にリアル。2人の過去のなれそめも、運命を感じさせるものでありながら共感性が高い。

「僕は今のところ異性愛者なので、男性が恋人になるという状況を経験したことはありませんでした。ただ、男友達に対して“俺という友達がいながら、あの男と仲良くしやがって”みたいな嫉妬心を感じたことはあって、そこってそれほど恋愛感情と変わらないんじゃないかなと思ったんです。感情は自分の中から拾って膨らませていけるなと思ったんですけれども、難しかったのは生活の部分ですね。男性の恋人同士が同棲したらどんな暮らしになるのか。例えば、家事分担ってどうしているのかな、と。付き合いたてのカップルという設定にすればそこはスルーできたんですが、自分が書きたかったのは恋愛が始まってから何年か経った2人の姿でした。恋愛の部分はもちろん生活の部分も想像することで、“男性の恋人同士の関係”ではなく、“文也と祥太の関係”が見えてくると思ったんです」

 物語が大きく動き出すのは、ある夜、祥太の元カノ・美里を招いた飲み会が開催されたことだ。実は、文也はもともと男性のことが好きだったが、祥太はそうではなかった。結婚を決めたとサプライズ発表した美里や、祥太の大学時代からの友人・宮川くんとの何気ない会話から、文也は恋人に対して罪悪感を抱き始める。そして――〈「あんたが。あんたが、祥太と結婚してくれてさえいれば、」/祥太は、僕となんか出会わなくて済んだのに〉

 口に出さなかった言葉は、祥太に届いていたのか否か。飲み会の後、帰りのタクシーでの2人のやり取りで、第1話は幕を閉じる。作家がこの2人について、他者の人生について弛まず想像し続けたからこそ辿り着けたゴールだった。

「同性愛って、悲恋っぽく書かれることが多いですよね。登場人物たちがずっと恋愛のことで苦しんでいたりする。もちろん男同士の恋愛は、異性愛者とは違うところで大変な部分はあると思うんです。でも、それだけじゃないはずですよね。楽しいとか嬉しいとか、幸せだなって気持ちも、この小説の中ではいっぱい書きたいと思ったんです」

この2人にとって最良の関係の形は

「もともと短編のご依頼だったこともあり、『ヴァンパイアの朝食』で2人の物語は終わりというつもりでした。でも、編集さんから“じゃあ、続きを書きましょう!”と(笑)。いろいろ話し合った結果、多角的な視点からこのカップルのことを書いていくことになったんです」

 以降は、第1話で断片的に登場した人物が主人公=語り手となる。第2話「自殺者の午睡」の語り手は、祥太の元カノの美里だ。

「美里のことは、僕もそうでしたし、第一編を読んだ方は一番気になるんじゃないかなと思います。元恋人が男性と付き合い出したという話を聞いた時に、どう思ったんだろうということを書いてみたかった。単純な反応ではなかっただろうなと思ったんですよ。受け入れたいけど心の中でちょっとうーんと思っていたりとか、うーんと思っているけどそういう気持ちもちょっと理解できちゃうな、とか。複雑だったと思うんですよね。でも、僕が知る限り、同性愛者について書かれたフィクションを見ていると、周りの登場人物たちは完全に受け入れるか完全に拒否するか、どちらかのリアクションに振り切っている印象が強い。そんな単純ではないよな、と以前からずっと思っていたんです」

 第4話「聖人たちの晩酌」では、祥太の父親が視点人物となる。一人息子から同棲相手を紹介すると聞き、女性がやってくると思っていたのだが……。その後も、文也と祥太の周りにいる人々が、2人と出会ったことで生まれ、変化していった価値観が記録されていく。一編進むごとにゆるやかに時は流れ、最終第6話「ヴァンパイアの夜明け」では再び文也の語りに戻ってくる。その時、何が起こるのか。文也と祥太の、そして読者のどんな価値観が揺さぶられるのか。

「最終話が一番悩みました。もともと1話目で終わっているつもりだったので、2人の“その後”のアンサーを作らなければいけなかったんです。最終的に考えたのは、2人にとってどういう関係性が一番いいのかをすり合わせる、構築し直す姿を書くべきなのかなということでした。関係って不変ではないというか、形がだんだん変わっていくものだなっていう認識が僕の中にあるんですよね。恋愛も友情も、親子関係もそう。しかも、人それぞれにいろいろな形があるんじゃないかと思うんです。例えば、毎週遊ぶのが一番の友情の形かって言われると、そうではないですよね。年に1回だけ会ってその時にめちゃくちゃ楽しく遊ぶのが、その2人にとっては一番いい友情の形だということもある。じゃあ、文也と祥太にとっての最良の関係の形は、どんなものなのか。2人の人生について想像に想像を重ねて、なんとか一つのゴールに辿り着けたかなと思っています」

 関係は変化するものであるということは、どの短編にも書き込まれている。そして、お互いに一番フィットする関係を探り合うことの大切さも。それこそが本作のテーマだ。

「関係が変わっていく過程で“この瞬間があったからこそ、自分と相手は今こういう関係になれたんだ”という場面って、たぶんどんな関係にもあると思うんです。そういうターニングポイントとなるような瞬間を、どのお話でも書いていたのかなと思っています。1話目で終わらず連作にしたからこそ、文也と祥太の関係にもより深く踏み込めたし、彼らの周りの人たちとの関係も膨らませて考えていくことができた。そもそも、相手とのより良い関係を求めたいという気持ちって、相手のことが好きだからこそ生まれるものですよね。最初は男同士の恋愛を書くつもりだったんですが、本にまとまった今改めて感じているのは、僕はこのお話でいろいろな形の愛情を書いたんだと思うんです」

取材・文:吉田大助 撮影:中西真基(AGENCE HIRATA)

きみじま・かなた●1989年生まれ。東京都出身。2021年「水平線は回転する」で第12回小説野性時代新人賞を受賞し、同作を改題した『君の顔では泣けない』でデビュー。同作は実写映画化され、2025年11月より絶賛公開中。他の著書に『夜がうたた寝してる間に』『一番の恋人』『春のほとりで』がある。

だから夜は明るい
(君嶋彼方/新潮社)1980円(税込)

付き合って3年、都内マンションで同棲を始めて1年半になる、27歳の文也と33歳の祥太。もともと男性のことが好きだった文也は、自分と出会うまでは異性愛者だった祥太に対して、“普通”の幸せを奪ってしまったのではないかという罪悪感を抱いていて……。第1話「ヴァンパイの朝食」に登場していた他の人物が、第2話以降は語り手に。祥太の元カノと男友達と父親、文也の行きつけのゲイバーのママ。それぞれの人生と共に、文也と祥太のカップルへの思いが語られていき、最終話へ。さまざまな愛の形を綴った全6編からなる連作短編集。

ダ・ヴィンチ 2026年1月号 [雑誌]

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だから夜は明るい

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