金欠のお針子が犯罪の現場に遭遇! 〈針と糸〉を武器に運命を切り開く『世界一不運なお針子の人生最悪な1日』【レビュー】
公開日:2025/12/26
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年1月号からの転載です。

『世界一不運なお針子の人生最悪な1日』
12月19日公開
監督:フレディ・マクドナルド
出演:イヴ・コノリー、カルム・ワーシー、ジョン・リンチ
2024年アメリカ、スイス 100分
配給:シンカ 12月19日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国公開
●大金を横取りすべく完全犯罪を狙うか、警察に通報するか、あるいは見て見ぬふりをするか。麻薬取引の事故現場に遭遇したお針子バーバラの頭に、3つの選択肢がよぎる。母が遺した店を守るため、人生崖っぷちの彼女が選んだ道は!?。
19歳で制作した同名短編が『ノーカントリー』のオスカー監督、ジョエル・コーエンの目に留まり、長編化を勧められたマクドナルド監督。世界の批評家たちを唸らせる〈裁縫クライムサスペンス〉を23歳で完成させ、堂々の長編デビューを飾った。
スイス山間部の町でお針子として働くバーバラ。唯一の肉親だった母の形見の店はすっかり傾き、頼れる友人も恋人もいない。そんな彼女が常連客の家から店に戻る道中で目にしたのは、血まみれで倒れた男ふたり、紙袋から飛び散った白い粉、拳銃、そしてトランクケース。完全犯罪=横取りか、通報するか、スルーか? 運命の三択が彼女の頭をよぎる……。
のどかな町を舞台に展開する、マルチチャプター犯罪劇で描かれるのは、商売道具の針と糸を駆使し、危機に立ち向かってゆくお針子の奮闘。テーマは、崖っぷちヒロインの「人生の選択」と「親の呪縛からの解放」だ。独創性あふれる設定と普遍的なテーマ、悲劇と喜劇が巧みに絡み合い、予測不能なストーリーを編み上げている。また孤独で金欠なバーバラを取り巻く、キャラ立ちした登場人物たちの造形もユニークそのもの。いけ好かない常連客や警察官・公証人・判事を兼任するマダムらの存在が、オフビート感をアップさせている。
映像業界で長いキャリアをもつ父で共同脚本家のフレッドに、9歳のときからストップモーションアニメづくりを教わっていた監督だけに、ディテールに凝った映像も味わい深い。まさに針に穴を通すような緻密で繊細な仕かけに、気分が上がりっぱなし。本物のミシンと糸の音を取り入れたサウンドも楽しめる快作だ。
文:柴田メグミ
しばた・めぐみ●フリーランスライター。『韓国TVドラマガイド』『MYOJO』『CINEMA
SQUARE』などの雑誌のほか、映画情報サイト「シネマトゥデイ」にも寄稿。韓国料理、アジアンビューティに目がない。
