ネットショッピングで「買いすぎ」を防ぐには? 行動経済学のプロが教える、人生が好転する「ポジティブアフェクト」の効果【書評】

ビジネス

公開日:2025/12/26

ポジティブアフェクトで幸せの仕組み化
ポジティブアフェクトで幸せの仕組み化(相良奈美香/主婦の友社)

 自分の人生を変える――。そう聞くと、壮大な計画を練らなければならないように思うだろう。だが、自分の無意識下にある感情を意識し、普段とは少し違う行動をとるだけでも、人生は好転する可能性がある。

ポジティブアフェクトで幸せの仕組み化』(相良奈美香/主婦の友社)は、そう語りかける実用書だ。

 著者は、行動経済学専門の博士。2013年にアメリカで行動経済学のコンサル会社を設立し、世界のさまざまな企業へのコンサル支援をしてきた。本書では、行動経済学で重視されている「ポジティブアフェクト」を日常に取り入れ、暮らしをより豊かにする方法を紹介している。

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喜怒哀楽ほど強い感情ではない「アフェクト」には人生を変える力がある

 著者いわく、人は1日に3万5000回の意思決定をしているそうだ。決断時には、素早く直感的な判断をする「システム1」と、注意深く考え分析する「システム2」という2種類の情報処理システムを使い分けている。

 どちらが強く働くかは人によって異なるが、2つのシステムは無意識のうちに連動し、時と場合によっても強さが変わるという。ただ、私たちは自分でも気づかないほど、システム1で意思決定している。そして、そのシステム1の決断時に大きく関わってくるのが「アフェクト」だ。

 アフェクトとは喜怒哀楽ほど強くはない、心の中に一瞬浮かぶ“淡い感情”。お茶を飲むか飲まないか、ランチはコンビニか定食屋か…など、私たちは秒単位でアフェクトを抱き、行動を選択している。

 アフェクトは、周囲に伝染しやすい。些細なアフェクトが仕事の効率を上げたり、購買意欲を高めたりすることがあるため、行動経済学の分野では重視されているのだ。

「ボランティアスタッフ」と思って接すると、部下の仕事ぶりに変化が起きる!?

 アフェクトは伝染するため、著者は「上に立つ人ほど、ポジティブなアフェクトを重視すべき」とアドバイス。上司の態度がギスギスしていると、職場にネガティブアフェクトが充満してしまうからだ。

 ポジティブなアフェクトが伝染しやすい職場にするには、上司が部下の成果を認めるなどしていくことが大切。著者が特に推奨するのは、クライアントの前で部下を褒めることだ。ポジティブアフェクトを感じながら働いてもらうと、仕事の成果が上がり、定着率も高くなるという。

 なお、部下を「職場に手伝いに来てくれたボランティア」 と捉え、感謝の気持ちを持ちながら接するのもおすすめ。部下との関わり方に悩んでいる人は、ぜひ試してみてほしい。

「買いすぎ」を予防するにはスマホより、パソコンでネットショッピング

 貯金をしたいのに、欲しいものを買いすぎてしまうのは、あるあるな悩み。そんな人に著者が勧める対処法は、ネットショッピング時にスマホではなく、パソコンを使うこと。なぜなら、パソコンよりスマホを使った時のほうが、素早く直感的な判断をする「システム1」で即決しやすいという研究結果があるからだ。

 また、クレジットカードや電子マネーではなく、現金で購入することも買いすぎ予防に繋がる。財布に入っている現金は物理的な実態があるため、手元からなくなる瞬間に「心の支払い痛」というネガティブアフェクトを感じるという。

 ちなみに、現金での支払いができなかった場合は支払い明細を読み、「心の支払い痛」を自覚することが大切。キャッシュレス決済が主流の今は使えるお金が無限にあるように錯覚してしまうこともあるからこそ、「心の支払い痛」に目を向け、身の丈に合う暮らしをしていこう。

「誕生日プレゼントは贈らない」が家族や友人との円満のコツに!

 親しい人と誕生日プレゼントを贈り合う行動は一見、ポジティブアフェクトのように思えるが、実はネガティブアフェクトになる可能性があるという。なぜなら、相手の好みに合うプレゼント探しでストレスがかかるからだ。

 また、人は得した時の喜びよりも損したショックのほうが約2倍強く感じるため、贈ったプレゼントが相手の期待値に達していないと、喜びよりもガッカリ感が強くなってしまうそう。そのため、著者は誕生日プレゼントを贈らないことが家族や友人と円満でいるコツだと話す。

 その代わりに推奨するのは、相手が欲しがっているものを「思いがけない贈り物」としてあげること。これなら相手の期待値は上がらず、誕生日プレゼントのように「お返しをしなきゃ」という負担もかけないため、ネガティブアフェクトが入りこむ余地がなくなるそうだ。

 家族や友人だけでなく、カップル間でも行うプレゼント交換。これを機に、贈り方を見直してみるのもいいかもしれない。

 自分のアフェクトに敏感になることは、自分自身を救うことにも繋がる。例えば、「なんとなく気持ちが暗い」などネガティブなアフェクトを抱いた時は、何かを変えるチャンス。本書との出会いを機に、今日の私よりも明日の私が笑える日常の築き方を考えていきたい。

文=古川諭香

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