歌人・穂村弘が講評 『短歌ください』第213回のテーマは「部活」

ダ・ヴィンチ 今月号のコンテンツから

公開日:2026/1/8

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年1月号からの転載です。

今回のテーマは「部活」です。「短歌ください」的には「帰宅部」が一番人気でした。

●指揮をする先生だけが気づかない後ろの窓に降りだした雪
(久藤さえ)

全員の心の中に「雪」という思いが閃きながら続く音楽。一人だけそれに「気づかない」まま「指揮」を続ける「先生」。その対比に不思議な美しさがありますね。

●帰宅部は金木犀や野良猫の悩みを聞いて回ると聞いた
(遊鳥泰隆・男・30歳)

「帰宅部」の活動報告。動物だけでなく植物の「悩み」も「聞いて」あげるところがいい。「帰宅部」「金木犀」「聞いて」「聞いた」のキ音つながりもポイント。

●缶ジュース回し飲みした自販機の明かりに集まる蛾がデカかった
(森岡さや・女・46歳)

「缶ジュース」の「回し飲み」と「蛾」、快適とも素敵とも思えない組み合わせに、けれども、その時だけの命の感覚が宿っている。

●前田敦子派と大島優子派で左右の河原に分かれて帰る
(村川愉季)

或る時代を生きた人間の記憶。「河原」というのも妙にリアル。「大島優子派でした」という作者のコメントがありました。

●「くそんごた」標準語では「うんちみたい」合唱中に顧問は吠えた
(稲野・男・24歳)

「標準語」のインパクトが凄い。翻訳すると決定的にニュアンスが変わってしまうことがある。日本語から日本語の場合もそうなんだ。
同じ作者の「謹慎の野球部とふたり『ムー』を読む きっかり二週間だけの日々」も、目に浮かぶようでした。一度きりの特別な「ふたり」の「日々」。

●よその部に恋人がいるマネージャーが作った麦茶が今日も濃い
(公木正)

「よその部に恋人がいる」ことで「マネージャー」の輝きは増しているみたいです。

●ざりざりのスポドリの粉飲み干して そうゆうもんだと思って生きてた
(森下窓加・女・35歳)

大人になった今はもう飲むことはないだろう。「そうゆうもんだ」と思い込んでいた世界の小ささが可笑しく愛おしい。「ざりざり」「ドリ」という響きも効果的。

●恋人の部活終わりを待っている石膏像に囲まれながら
(タカノリ・タカノ・男・35歳)

美術部と運動部のカップルでしょうか。「石膏像」たちはたくさんの「恋人」たちを見てきたのかも。

●グランドの砂嵐消えまた現れ誰かが非常ベルを押す放課後
(法廷ペンギン・男・29歳)

「放課後」という時間の、どこか幻めいた捉え難さが伝わってくる。何かが起こりそうで、まだ何も起こっていない。

では、次に自由題作品を御紹介しましょう。

●将来の夢がおとうふだった子がモルガン・スタンレーになった
(殿内佳丸・女・44歳)

「幼稚園の頃とうふになりたいと言っていた男子がモルガン・スタンレーに入社しました」との作者コメントあり。そのギャップが面白い。「おとうふ」の「夢」を叶えた者はたぶんまだいない。

●手に乗せた豆腐を手ごと切り入れた味噌汁を飲んだら手が戻る
(神澤保仁・男・19歳)

奇妙だけど論理的にも思える。「切り入れた」ほうの「手」で「味噌汁」を飲んだのかなあ。

●折り畳み傘を袋に入れるとき 蝶を蛹に入れるみたいで
(猪山鉱一・男・23歳)

「折り畳み傘を袋に入れる」のは普通だけど、「蝶を蛹に入れる」のは神様が時計を逆に回すような行為。でも、確かに似ている。

同じ作者の「全員が目をつぶってるクラス写真 そういう奇跡を信じていたい」もよかった。

●うまい棒の袋を舐める君を見て結婚したんだなって思う
(遊鳥泰隆・男・30歳)

「うまい棒の袋」と「結婚」が繋がる驚き。恋人には見せない姿なのだろうか。

●和菓子屋はどれも車が停めにくい場所にあり命がけのおやつ
(シラソ・女・40歳)

「和菓子」が何故「命がけのおやつ」なのか。見えない論理が浮かび上がった。

次の募集テーマは「麻雀」です。未経験の方はイメージや想像でお願いします。色々な角度から自由に詠ってみてください。楽しみにしています。

また自由詠は常に募集中です。どちらも何首までって上限はありません。思いついたらどんどん送ってください。

絵=藤本将綱

ほむら・ひろし●歌人。歌集に『ラインマーカーズ』『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』など。他の著書に『にょっ記』『短歌の友人』『もしもし、運命の人ですか。』『野良猫を尊敬した日』『はじめての短歌』『短歌のガチャポン』『蛸足ノート』『満月が欠けている』など。『水中翼船炎上中』で若山牧水賞を受賞。デビュー歌集『シンジケート』新装版が発売中。

<第7回に続く>

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