TVアニメも人気の漫画家マンガ『笑顔のたえない職場です。』妄想しがちな天才漫画家、赤面する編集者、有能すぎるアシスタントの関係性が可愛すぎる!【書評】

マンガ

公開日:2025/12/29

笑顔のたえない職場です。
笑顔のたえない職場です。(くずしろ/講談社)

 仕事は、たとえどれほど自分が好きで続けていても、辛く感じられる瞬間が訪れる。そのような状態が続けば、自己肯定感も下がり好きな仕事がそうでなくなる可能性もある。仕事にいつまでも前向きに笑顔で向き合うためにはどうしたらいいのか。おそらく本人の意識だけではなく環境も重要だろう。具体的には、楽しい仕事場かどうかではないだろうか。

笑顔のたえない職場です。』(くずしろ/講談社)は、2025年秋にTVアニメ化されて話題の漫画家マンガだ。そこには理想的な漫画家の仕事環境が描かれている。それは、読んでいるこちらも思わずニコニコしてしまう職場なのだ。

■称賛されたい!大好きだけど大変なマンガをつくるお仕事です

 双見奈々は25歳の駆け出し漫画家。念願の将棋マンガ「昴へ」の連載をスタートしたばかり。ただ順風満帆とは言い難く、ネームや作業が深夜まで進まないことはざら。1話制作時にストレスから胃を痛めて締切をいきなり延ばしてもらっていた。

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 本作は、アシスタントの“はーさん”こと間瑞希と共に、双見が必死にマンガ制作に取り組む日々を描いていく物語だ。

 主人公の双見は、言い尽くされた言葉であるが「おもしれー女」だ。年上の担当編集者・佐藤楓から連絡がないと取り乱して“よからぬ妄想”を叫び、佐藤編集やはーさんから自分への愛情が少ない、褒めてほしい、などと泣いてわめいて子どものようにいじける。これらすべてが仕事中なので、年下のはーさんに「仕事して」と厳しくツッコまれる。

 今は「自己肯定感を上げていく」ことが是とされる時代である。作品に心のありようが表れるクリエイターならばなおさらだ。つまり承認欲求を満たし称賛されたい、と願う双見は間違っていない。私たちは皆「称賛されたい」と願うべきなのだ。それは、がんばるための力になるからだ。

 ちなみに、はーさんは双見に「天才」だと面と向かって伝えているが、本人にはあまり響かない。

 双見は、漫画家としての才能は確かにあるのだ。まず彼女は描きたい物語をもっている。そのネタを聞かれれば将棋をはじめ、スポーツもの、耳が不自由な身内がいるために覚えた手話を題材にしたストーリーなど即答できる。また見栄えのするカラーイラストも描ける。そして取材の場であっても、60分程度の間に新キャラクターを生み出し、ネームを、ある程度まとめ上げることもできるのだ。

 そんな双見に佐藤編集がかけた台詞は絶妙だった。漫画家のやる気を引き出し、気持ちよく描かせる編集者の言葉の選び方を、7話を読んで確かめてほしい。

 本作は、おもしれー女漫画家が奮闘するコメディでもあるが、リアルでアツい漫画家マンガでもあるのだ。だからこそストーリーの序盤、マンガを制作する仕事場ではずっと笑ってはいられない、というタイトルの逆回収も描いている。ただ私たちは、読みながらずっと笑顔なのだ。

■双見に向いた感情と皆の関係性に誰もがニコニコさせられる

 職場の雰囲気の良さ。これを左右する最大の要素は人間関係ではないだろうか。必要なのは信頼だ。これがあれば自然に助け合いが生まれ、業務は捗り、成果に繋がる。

 本作のキャラクターの関係性は極めて良好で読んでいて非常に心地良い。

 佐藤編集は「昴へ」の連載を立ち上げ、せっせと双見を支える“しごでき”女性。一見クールで担当漫画家を褒めることは多くない。その理由は恥ずかしいから。双見を天才だと認めつつも、子どものように照れてしまう。かわいらしい(しかもシンプルなドジも多い)佐藤編集は、他の編集者が双見に仕事を依頼しようとすると大きく動揺し「私だけとやってほしい」と告げる。赤面しながら。

 有能アシスタントのはーさんは、漫画家に憧れはあるものの「マンガアシは自分が必要とされている仕事」だと認識しており、漫画家を目指すか迷いブレていた時、たまたまアシに誘ってくれた双見への思い入れもある。22話の「私も好きだからやってる」と力強く宣言するシーンや、双見から「めっちゃ助けてもらってる」と言われた24話のラストは見逃せない。

 最新13巻では、双見が大きな出会いをはたす。そのひとりは、ついにアニメ化が決定した『昴へ』で主演を務める声優・冬島りさ。もうひとりは、将棋監修の女流棋士・角館塔子の体調不良により、代役となった天野香織だ。天野は現役女流棋戦七大タイトルをすべて保持する天才である。これらの出会いが何を生み出すのか。そして、はーさんが自身の将来をこれまで以上に深く考えるきっかけとなる出来事も描かれており、見逃せない内容となっている。

 こんな彼女たちが出入りするマンガ制作現場は、やはり理想的な職場だ。前述の通りいつも笑ってはいられないけれど、信頼と感謝に基づいた関係性が存在し、仕事が終わり脱稿すれば皆ニコニコになる。

 この笑顔がたえなくなるマンガをかなり忠実かつ、拡張させているのがTVアニメ版だ。キャストが演じる声のトーンや、フルカラーで頬を赤らめる表情により彼女たちの関係性をさらに強く感じられておすすめだ。

 マルチに盛り上がる『笑顔がたえない職場です。』をニコニコ楽しんでみては。

文=古林恭

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