DV、モラハラ、ブラック企業……逃げるしかない人たちの命がけの脱出劇を目の当たりにした実録ストーリー『夜逃げ屋日記』【書評】

マンガ

公開日:2026/1/22

「逃げる」という言葉には、どうしても後ろめたさや弱さのイメージがつきまとう。しかし『夜逃げ屋日記』(宮野シンイチ/KADOKAWA)は、逃げることを否定せず、むしろ新たな自分を見つけるための力強い一歩として描いたコミックエッセイ。著者の宮野シンイチ氏が自身の体験取材を通じてつづるこのシリーズは、単なる裏稼業の記録にとどまらず、人間の尊厳と再生の瞬間をすくい上げる作品だ。

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 物語の中心となるのは、特殊な引っ越し業者「夜逃げ屋」。夜逃げ屋とは、DVをするパートナーや毒親、ストーカー、モラハラなどから逃れたい人々を、安全かつ秘密裏に引っ越しさせるプロ集団である。外からは普通に見える家庭の裏側で、さまざまな事情を抱えた依頼者たちが“最後の手段”として夜逃げを選ぶ瞬間に立ち会い、その現実と痛みを作者自身が体験しながら描き出す。

 シリーズを通じて驚くのは、依頼者一人ひとりの逃げる理由の多様さだ。少し前なら、夜逃げといえば多額の借金から逃れるための手段を連想したかもしれない。しかし、この作品にそんなステレオタイプは存在しない。DV夫から子連れで逃げたい母親、宗教に縛られた家庭から出たい娘、ブラック企業で心身を壊しそうな男性など、夜逃げを求める人々にはそれぞれに事情がある。さらに、最新の第5巻では、依頼者の友人が夜逃げ屋を頼らず夜逃げを手伝おうとして危険な状況に巻き込まれたり、余命わずかな高齢女性が人生の最期のために夜逃げを選んだり、逃げる行為の重みと尊さが描かれる。SNSで人気のキャラクター「ブルさん」の登場も見逃せない。

 逃げることとはつまり、「新たな居場所を探す」こと。本作での逃げることは単なる逃避ではなく、新たな人生を歩むための究極の選択なのだ。決して恥じることではなく、未来を掴む力として「夜逃げ」を肯定する強さは、読む者の胸に深く響いてくる。

文=宇田 勉(From Kennedy)

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