入社3年目テレビ局員によるエッセイ連載「テレビぺろぺろ」/第8回「隠れ元野球部員の私が告白に至った理由」
公開日:2026/1/20

テレビ東京入社3年目局員・牧島による、連載エッセイ。「新しくて面白いコンテンツ」を生み出すため、大好きなお笑いライブに日参し、企画書作成に奮闘する。これはそんな日常の記録――。
こんにちは。
テレビ東京の牧島俊介です。さて...。
告白しよう。
私は野球部だった。
野球バカだと思われたくない。知的な文化系だと思われたい。
年々増加しているであろう隠れ元野球部員たちに勇気を与えるため、ここで打ち明けることを決意した。
この告白を終えたとき、私はきっと晴れやかな気持ちで満たされているはずだ。
野球部だった過去を伏せるようになったのは、この仕事に就いてからである。
学生時代の部活動の話題になれば、さりげなく逸らしてやり過ごす。どうしても避けられないときは、「ちょっとだけ野球を…」とばつが悪そうに答える。
子どもの頃から社会人になる前まで、いつだって野球は私の生活の大部分を彩り続けてきた。小学3年生で始めた野球は、中学・高校では部活として、大学ではサークルとして、私の青春に深く根を下ろしていた。そこに恥じらいなど入り込む余地はない。ただ真摯に野球を愛好し、特に高校時代は情熱の全てを注ぎ込んでいた。
野球を通じて学んだこともきっとあるはずなのに、今こうして熱中した過去を隠すなんて、失礼極まりないとは思っている。それでも私は、野球をアイデンティティから切り離すことを選択した。
率直に記すと、ナメられるのではないかという怯えがあるのだ。
「バッチコーイ」
グラウンドに陽炎が立ち上る夏の日も、雪が降り頻る冬の日も、野球部員は声を張り上げる。
自分の守備位置にボールが飛んでこいという意味。私も、何度も繰り返し叫び続けてきた言葉だ。
だが、野球を離れた今考えると、なぜそんなことを願うのかわからない。別に、自分のところに来ようが来まいが、チームでアウトを取れれば良いはずである。チームスポーツであることを忘れてしまっているのだろうか。思い返せば、本気で自分のところに来いと願いながら発したことは一度たりともなかった。何となく周りに合わせて言っていただけである。
カタカナ表記が正しいのか、ひらがな表記が正しいのかもわからない意図不明の言葉を、大声で叫び続けてきた。そんな青春を送っていたことが明らかになれば、頭が悪そう、ひいては面白いことを絶対に思いつくわけがない、と認定されるに決まっている。テレビ局に入ると同時に、私は野球が照れ臭くなった。球技ならバドミントン部とかハンドボール部だったらまだ良かったなと思う。むやみに叫ぶイメージがない。
さらに本質的なのは、エンタメの教養がないと思われたくないという不安である。
近年この業界では、溌剌な体育会系よりも寡黙な文化系、エンタメエリートたちが幅を利かせるようになってきた。一日中、寝る時間以外は本を読んで過ごしてきた文学少年。年間300本以上の映画を見続けてきた映画少女。そんな過去を持つ人たちがゴロゴロいる。
「私が何百冊も本を読んでいる間、たくさん声を出していたのかな」
エンタメの蓄積が薄い。インプットの量が足りない。野球部であった過去によって、そんな烙印を押されてしまうのではないか、と恐れているのだ。
いや、烙印とも言い切れない。私だって、野球をしていない時間に本を読み、ラジオを聴いた。大学生の時に通い詰めたお笑いライブに刺激を受け、この業界を志望した。それでも、幼少期からフルタイムでエンタメを浴びてきたエリートたちの摂取量には、到底敵わないだろう。勝てるのは紫外線の摂取量くらいである。
野球にも知的なスポーツだという側面はある。相手の癖を分析し、配球を読み、一球ごとに戦略を練る。ただ、エンタメ制作に必要な類の教養とは異なるように思えて、「高校時代はゴダールの映画を、セリフを覚えちゃうくらい見た」などと言われると、どうしても気後れしてしまう。
だから、私は野球を抜いて、サブカルを装うことにした。
大学生の頃まではコンタクトをつけていたが、入社に合わせてクリエイターメガネをかけるようになった。つまり、センス系コント師がかけているような金属製の細縁メガネである。文化系のコスプレまでするようになったのだ。加えて、話し声は極力小さく、低くした。
そんな典型的な隠れ元野球少年だった私は、昨年末、お笑い賞レースの決勝を見て衝撃を受けた。とある芸人が、元野球部であることを堂々公言しながら、非常に知的で文学的なネタで好成績を収めていたのだ。彼らのYouTubeを見ると、野球にまつわるネタだってある。隠すどころか、むしろ武器にしている。そして、コンビ揃って裸眼、ないしはコンタクトだった。
私はとても勇気をもらった。
元野球部だって、ちゃんと実力があれば、ナメられない。
次は私の番である。
かつて、グラウンドで声を張り上げていた少年たちがいる。今は社会の片隅で息を潜め、自らの過去を隠している。一刻も早く、彼らを恐怖から解放してあげたい。
私はクリエイターメガネを外し、ここに野球部であった過去を告白することにしたのだ。
そして誓おう。いつか必ず実力をつけて結果を出し、我々を見下してきたエリートたちを見返してやる。別に何か言われたことがあるわけではないのだが。
