ただの三角関係ラブコメじゃない! 女子高校生たちの切ない葛藤を描く青春群像劇『百合にはさまる男は死ねばいい!?』
公開日:2022/7/7

才能と情熱。そのどちらかしか手に入れられないとしたら、いったいどちらを選ぶだろう。誰よりも努力を重ね、人並み以上の実力を磨いた自負があっても、圧倒的な才能を前にしては打ちひしがれるしかない。けれどその圧倒的な才能を手にしていても、その才能を愛する気持ちがなければ、やっぱり道は切り開いていけない。『百合にはさまる男は死ねばいい!?』(蓬餅/LINE Digital Frontier)は、そんな、才能と情熱の間で揺れる女子高生たちの葛藤を描き出す、青春群像劇である。
タイトルを見たときの印象は「女子同士の恋愛模様に乱入しようとする男子が主人公のラブコメかな?」だった。実際、第1話は、教室でカップルがいちゃついているのを、荷物をとりにきた女子が冷ややかに見つめるところから始まる。ここから三角関係に発展するのだろうか?と思って読み進めると、始まるのは吹奏楽部を舞台にしたガチガチの文科系スポ根マンガだ。

入部以来、トランペットの1stポジションを勝ち取ってきた片桐千早は、転校生の相川響にあっさりその地位を奪われる。音楽一家に生まれ、全国に名をはせる強豪校でトランペットを吹いていた彼女は、まさに天才。朝も昼もひとりで練習を重ねてきた千早の努力と情熱は、部活に遅れてまで教室で彼氏とキスする響の才能を前にしては無力だ。……けれど、そこで嫉妬心をむきだしにするのではなく「自分と同い年でこんなに技術のある人が近くにいるなんて私、運がいいわ」「相川のおかげで知見を広げることができたからこれからも隣で吹いて欲しい」と響に手を差し伸べる片桐のまっすぐさは、“特別”ゆえに音楽を楽しむことができなくなっていた響の心を動かしていく。

片桐と一緒にトランペットを吹いている時間は何よりも尊い。誰よりも音楽を愛している片桐にがっかりされたくないから、音楽から逃げたいなんて言えない。そんな葛藤を抱える響に、別の手を差し伸べるのが“彼氏“である日向尊だ。音楽に対する気持ちをみきわめたいなら、音楽以外の選択肢にも興味をもったほうがいいと、期間限定でつきあうことを提案する彼に響が乗ったのは「多くの選択肢のなかから音楽を選んだ」という自信がほしかったから。そして、尊が唯一、響に「音楽をやめていい」と言ってくれた人だからだ。けれど、彼と過ごす時間がどんなに心地よくても、音楽以外の道にどれほどの魅力を感じるようになっても、片桐と過ごす時間には勝らない。ますます葛藤を深めていく響と、まるで報われないのを自覚しながら響のために尽くし続ける尊。そんな事情をなにひとつ知らない片桐は、響に、尊との時間よりも自分と音楽を奏でる時間を選んでほしいと願いながら、干渉できない自分の立場にもどかしさを募らせている。その想いはそれぞれに、切ない。片桐と響の間に挟まる尊に「死ねばいい」とは思わないが(あまりにかわいそうなので…)、一日もはやく響が迷いを捨てて幸せをつかみとれる日がきてほしい、と願ってしまう。
片桐は片桐で、響と出会い音大進学をあきらめた節もあり、響という才能が投下されたことで吹奏楽部員たちのなかに生まれた波紋もまた読みどころのひとつ。さまざまに葛藤を抱えながら、ふたり以外にも進行する何組かの百合模様もあわせて、先の気になる作品である。
文=立花もも
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