ダ・ヴィンチ編集部が選んだ「今月のプラチナ本」は、山下紘加『あくてえ』
更新日:2025/1/10

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?
『あくてえ』
●あらすじ●
「『あくてえ』は、悪口や悪態といった意味を指す甲州弁」。19歳のゆめは、あらゆることに苛立ち続けている。憎まれ口ばかり叩く祖母、優しさのあまり誰にも何も言えない母、外に子供を作って出ていった祖母の実子である父親、軽薄さの滲み出る彼氏、そして、日々を必死にこなすうちに遠ざかっていってしまう小説家という夢……。思うようにならないヘヴィな日常への叫びが、ゆめの一人称で語られる。
やました・ひろか●1994年、東京都生まれ。2015年『ドール』で第52回文藝賞を受賞しデビュー。著書に『クロス』『エラー』などがある。本作『あくてえ』は第167回芥川賞候補作となった。
- 山下紘加
河出書房新社 1650円(税込)
写真=首藤幹夫
編集部寸評
作家志望者からこぼれ落ちる悪態
ゆめとその母のきいちゃん、そして「ばばあ」の三世代が同居する家。そこで交わされる悪態に、きいちゃんは関与しない。ゆめの悪態は「ばばあ」にのみ向けられ、出ていった父親や彼氏に対するそれも、似て非なるものだ。彼らはゆめにとって、逃れがたい生活の外側にある。そう整理すればシンプルでも、個人にとってはどうしようもなく込み入ったこと。それが「あくてえ」として、ゆめの口からまっすぐに語られる。あまりにも現実で、救いはない。だからこそ読んでほしい、人間の小説だ。
川戸崇央 本誌編集長。2019年の依頼から3年。メールのやり取りのみで完成させた弘中綾香さんの初エッセイ集『アンクールな人生』が9月14日に刊行!
言葉になりきらない感情をあきらめない
「あたしの思いは、うるせえな、に全部集約される」。わかるわかると思ってしまうのは、全てにむかつく19歳が自分のどこかに残っているからだろうか。賢明な大人は言葉にできない不快の言語化を試みたりしないし、言ったところで変わらないと思えば沈黙するだろう。だからこそ、賢明でない〈ゆめ〉と〈ばばあ〉のあくてえに爽快なものを感じてしまう。端正な言葉に収まらぬ怒り、始末の悪い感情、逃げ場のない人生、小説だからこそ顕れる何か。大人な皆様ぜひうちのめされましょう!
西條弓子 UV対策および舐められがちな外見へのテコ入れのためサングラスを導入したところ、全く路上で人に話しかけられなくなりました。サングラスすごい。
人と関係する限り「あくてえ」は続く
〈「あくてえ」は、悪口や悪態といった意味を指す甲州弁〉。主人公は祖母に「あくてえ」をつきまくる。今作を読みながら、母が祖母の介護をしていた頃の記憶が蘇えった。〈口論が起きるのは、ばばあが悪いのではなく、あたしに問題があって、自分は人として、何か大きく欠落しているのだろうか〉─自分もそう考えた時期があった(今もそう思ったりする)。優しくしようと思った直後に憎しみが襲ってくる。そういう感情の波は続いていくのだろう。諦めず、人と交わっていく限り。
村井有紀子 夜ジョグや自重トレーニングにハマって早2カ月。外出時には、友人も私に付き合わされ食事制限を。皆ありがとう……誕生日までは頑張る……。
癖になる「あくてえ」の応酬
19歳のゆめと、90歳を迎えたばかりのばばあと、お人よしすぎるきいちゃんの「あくてえ(悪態)」にまみれた日々。ゆめとばばあのあくてえの語感が、だんだんと癖になってくる。「あたしのバナナはどこにやっただ」「いい加減にしろ! いじきたねえんだよ」こんな応酬を繰り広げられるのは〝家族”だけだし、鼻くそをとってあげられるのも〝家族”だけだ。ゆめのやるせなさやいらだちは痛いほどに伝わるが、生きている限りあくてえをつき続け、何とか折り合いをつけていくのだと思う。
久保田朝子 最近たき火の動画をボーッと見るのにハマっています。2~3時間経つのがあっという間すぎて怖いですが、無心になれていいです!
怒りの先にあるもの
約2時間、ノンストップで読んだ。途中から、もはや自分が作品の主人公になった気持ちでこの環境に「怒り」を覚えていた。そして気がつく。最近私は「怒り」を覚えたあと、それを何か解決できていたか。悪態や愚痴を吐くだけで終わらせていないか。世の中、少ない選択肢のなかで解決しなければならないことも多い。物事を解決するのは疲れる。ただ、私たちは悪態をつく他に何か出来ることもあるはず。あくてえをつきつづけるゆめの言葉を読んでいるとき、ふとたどり着いた瞬間だった。
細田まりえ 10年ほど通っているお気に入りのお店が、今月閉店することに。もうあのメニューが食べられないのかと思うと悲しいです。閉店まで大事に通いたい。
「あくてえ」をつく意味
小説家を目指す19歳のゆめは、90歳の祖母と、母・きいちゃんの三人暮らし。本作では、まさに「あくてえ」をつかざるを得ないと思わされる、祖母を介護する日々が綴られている。ある時、ゆめは言う。「憎たらしいあくてえばかりつく手に負えない女だと思われていた方が楽だった。(中略)先に相手を傷つけた方が、自分は傷つかずに済むと信じていた。」と。「あくてえ」は自らを守るための鎧のようなものなのかもしれない。ままならない現実は“その時”まで続いていくのだから。
前田 萌 引っ越してからおよそ2カ月が経ちました。つまり愛犬と離れて暮らすようになって2カ月……。あの温もりが恋しくて恋しくて仕方ありません。
その「あくてえ」に秘められた想い
19歳のゆめから溢れ出る「あくてえ」の数々。それには、ただ相手を攻撃するだけではない複雑な心境が絡み合っている。言葉を思うように扱えない苦しさ、不器用なやさしさと諦め。「あたしの思いは、うるせえな、に全部集約される」。それぞれの想いを的確な言葉で語る術のないゆめのもどかしさは、作中で繰り広げられる悪態で表現されている。たった一言の「うるせえな」では、その胸中を推し図ることは出来ない。しかし、この作品でその言葉の裏に抱かれた心情の存在に気づかされる。
笹渕りり子 4人のブックウォッチャー書評メンバーの方々は今号でラストになります。毎月の原稿を楽しみにしておりました。2年間ありがとうございました!
感情と自意識の狭間で
この本に「わかる」と共感する自分を、自分の中の正義感や道徳心が叱りつけてきて、苦しかった。相手は90歳の祖母であるという意識が、怒りの感情を覚えること自体を後ろめたくさせる。襲い掛かる理不尽に19歳のゆめと一緒になって苛立ちつつも、ふと我に返ると、人に見せたくない、後ろ暗い感情を露呈してしまったようで、なぜか罪悪感に似た感情が沸き起こる。かっこつけの私には、もうこういう感情のぶつけ方はできないのかもしれない。ゆめのあくてえを、少し羨ましくも思うのだ。
三条 凪 腰まであった髪を20cm以上ばっさり切りました。が、なぜか親しい友人にも全然指摘してもらえません。違和感がないから、だと思うことにします……。
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