SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第15回「私はあなたを「あなた」と、呼ぶ。〜ありがとう、校長先生〜」
公開日:2022/9/27
その日の三時間目と四時間目は調理実習。厨房に立つ父ちゃんを見ていたからか、私は包丁をはじめとする調理器具を触るのが割かし得意だった。お気に入りのうさぎのエプロンをして準備万端、本日は幾つかの班に分かれてサンドイッチを作ることになっていた。手際が良いことと、調理場を綺麗に使うこと、何より食材を丁寧に扱うこと。これだけを念頭において完成させたサンドイッチは、小学生が作ったにしてはなかなかの出来だったと思う。
そして運命のくじ引き。これは校長先生と教頭先生に食べてもらう班を決めるくじ引きである。自分たちで作ったものを自分たちで食べるのも良いが、誰かに食べてもらうことの嬉しさは子供ながらに知っていた。なので別段好きでも嫌いでもなかったが校長先生と教頭先生に是非ともうちの班のサンドイッチを食べて欲しいと思った。
箱に手を入れて迷いなく引いた紙には赤で丸の印、見事に当たりを引いた。
程なくして校長先生と教頭先生が教室に入ってきて、我が班の席に着く。私はワクワクを隠しきれずに落ち着きがなかった。
「まア、綺麗ね、上手に出来てる」そう言ったのは真っ赤な口紅の教頭先生。
「おオ、本当だ。美味しそうだ」こちらは整髪料か何か、かなり強めの香りで有名な校長先生。
担任の先生の「頂きます」で、一斉に自分の班で作ったサンドイッチを食べ始める。それぞれのテーブルから「美味しい」と嬉しそうな声が上がった。
「わア美味しい」
「本当だ、美味しい」
教頭先生の言葉に校長先生も続く。うちの班のサンドイッチなのだから美味しいに決まってると思いながら、私も得意になって口に運んだ。決まった具材で、作るものであるからして然程差が生まれることはないと思うが、上出来であると思った。
しかしこの後不思議なことが起きた。二人ともそれ以降サンドイッチに手をつけないのだ。一人当たりお皿に四切れ、全て平らげた私たちに対して、目の前の二人のお皿には三切れと半分が残った状態だった。私は疑問をそのままぶつけた。
「先生たちは、もう食べないんですか?」
すると教頭先生が眉毛を下げて答えた。
「ごめんね、今日お昼にお蕎麦とっちゃったのよ」
なかなかに、衝撃的だった。これが理由になるということがうまく理解出来なかった。昼に頼んだ出前を食べるから、生徒が作ったサンドイッチは食べられない、と。今日はそういう日だと事前に知らされていたにも拘らず、子供たちが作ったサンドイッチを食べたら蕎麦が入らなくなるのもわかった上で出前を頼んだ、と。
程なくして担任の先生の「ごちそうさまでした」が聞こえた。校長先生と教頭先生はニコニコ笑いながら「美味しかった、ご馳走さま」と口にして席を立った。テーブルには殆ど手付かずで残されたサンドイッチ。すごいな、持って帰りもしないんだ。
きちんと傷付いたし、こういう人間でも「先生」になれるなら立場というものは全く当てにならないことを学んだ。この場所が学び舎たる最高の所以だろう。
どんなやつでも先生になれる。どんなやつでもバンドマンになれる。言葉なんてもっとハードルが低い、言おうと思った瞬間に口に出来る。
だから「あなた」って、発するだけなら正直まじチョロい。
だからあなたは自分でしっかり判断してね。その言の葉の根にある意識を。その根が張る土壌そのものである人間を。
その上で改めて。私は「あなたたち」ではなく「あなた」に歌ってます。

しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。2025年4月に結成20周年を迎え、SUPER BEAVER 自主企画「現場至上主義 2025」を4月5日、6日にさいたまスーパーアリーナで行い、さらに、6月20日、21日に自身最大規模となるZOZOマリンスタジアムにてライブを行うことが決定。
自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中