見上愛さんが選んだ1冊は?「思春期の整理のつかない自意識に、主人公の不安定な自我が響きました」
公開日:2022/11/14

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、見上愛さん。
(取材・文=松井美緒 写真=干川 修)
「どの本にしようか悩んだんですが、やっぱり『他人の顔』がパッと思い浮かんで。17、8歳のときに初めて読んだ衝撃が忘れられません」
高校時代は演劇部に入り、寺山修司や別役実、野田秀樹の演劇に夢中になっていた見上さん。その影響もあって多くの本に親しんできたが、いまだに『他人の顔』は最も心に残る小説だ。
「お話が心に残るというよりは、あの読書体験が忘れられないんです。読んでいる間にいろんな気持ちになって、心をかき乱されました。衝撃って言いましたけど、瞬間的に訪れる衝撃じゃなくて、じわじわ心を侵食される感じ。読後も1週間くらいずっとモヤモヤ考えて」
近年、ルッキズムが議論されているが、“顔”と内面の乖離を取り上げている点でもこの小説は先駆的だ、と見上さんは言う。何がそれほど見上さんの心をかき乱したのか。
「当時の私のまだ自意識のあり方が行方不明みたいな状態に、主人公のグロテスクともいえる不安定な自我が、すごく響いたんだと思います。大人になっても自我ってグチャグチャしてるんだなあ、と」
見上さんは、11月23日より、松尾スズキ作・演出の舞台『ツダマンの世界』に出演する。前述のように演劇部に所属し、大学では演出家を志して勉強していた。そんな見上さんにとって、今回が念願の初舞台。しかも、10代の初めからずっと憧れていた松尾スズキ2年ぶりの新作だ。
「オーディションに受かったと聞いたときは、とても驚きました(笑)。私が松尾さんの舞台に出るなんて信じられませんでした」
一番好きな松尾さんの舞台は『業音』。松尾作品は、人間の持っているどうしようもない醜さを、愛おしく描いているから大好きだ、と言う。
「『ツダマンの世界』も本当に面白いです。登場人物の運命が絡み合って、一見複雑なんですけれど、でもそこに一人一人の人生が浮かび上がって、それがすべて深いところでつながっている」
今の意気込みは?
「緊張と楽しみが交互に来てドキドキしてます(笑)。でも、素晴らしい先輩方とご一緒できるのが本当に嬉しくて、皆さんがこのキャラクターたちをどう演じられるのか、私も一人のファンとして早く観たいです。皆さんの演技とその空気感を受けて、私もこれまでと違ったお芝居ができたらいいなと思います」
ヘアメイク:豊田健治(SHISEIDO) スタイリスト:下山さつき 衣装協力:ネックレス/WOUTERS & HENDRIX 6万500円 *税込
舞台『ツダマンの世界』

作・演出:松尾スズキ 出演:阿部サダヲ、間宮祥太朗、江口のりこ、村杉蝉之介、笠松はる、見上 愛、皆川猿時、吉田 羊ほか 11月23日(水)~12月18日(日)、Bunkamuraシアターコクーン 12月23日(金)~29日(木)、ロームシアター京都メインホール
●舞台は昭和初期から戦後。小説家・津田万治の半生を、女中のオシダホキらの視点から振り返る。