誰のものでもない、自分の人生を楽しむために――「誰かのため」だけに生きている自分を変える処方箋

暮らし

公開日:2023/3/15

「誰かのために」を手放して生きる
「誰かのために」を手放して生きる』(中道あん/自由国民社)

 ジェンダー平等の認識が大きく広がったとはいえ、家事や育児はまだ女性が得意というイメージが強い。それらの負担に苦しむ女性や、自分の中にある良い妻像や母親像に縛られている人も多いだろう。そんな「誰かのために」をベースに生きている人が、自分軸で人生を歩むヒントを得られるのが、本書『「誰かのために」を手放して生きる』(中道あん/自由国民社)だ。

 著者の中道あん氏は、25歳で結婚後に三児を授かり主婦業に従事。パートや正社員の仕事を経て、50歳を過ぎて日々の生活や思いを発信するブログをスタート、2019年に起業した。現在は著述家、ブロガー、起業家として活動し、アラフィフから新しい生き方を手にした人物だ。

 長い間、家事・育児に奔走し、夫や家族のために生きてきた著者は、子どもの成長に伴い自分の生き方を問い直すようになったという。夫との別居で、必然的にお金のことや、おひとりさまで生きる今後にも目を向けざるをえなくなった著者が、日々の生活や経済的な自立などのさまざまな視点から、「自分の人生を生きる」ために必要なことを、ブログのようなライトな言葉で伝えている。

advertisement

 縛られた生活から新しいことを始めるために必要なものや、楽しいひとり時間の作り方など、読者が人生を主体的に動かしていくためのポイントが満載。「誰かのために」生きてきた過去の経験も糧にして今を楽しむ著者の言葉は、長く人に尽くしてきた著者と同世代の女性だけでなく、今まさに仕事や子育てをがんばっている世代の心にも強く響く。

 たとえば、第1章の『「家族のためのごはん作り」を見直そう』では、多くの時間を割く家事のひとつである「食事作り」をテーマに、自分を助ける方法を伝えている。食事や食器などを全部用意してあげたり、家族の口に合わないものがあったら別のものを作ってあげたりという、「やりすぎ」な習慣を見直す。自分の城のように守るキッチンを家族に開放する。自分を縛るこだわりを手放してやらないことを決めれば、「誰かのために」から解放されて楽になり、家族も変わっていく。それが自分の仕事だと思い込んでいた人は、自らを苦しめる負担に気付き、生活を変えるきっかけを得られるのではないだろうか。

 大人になった著者の子どもたちの言葉や今の姿も交えて伝えられる子育てに関する助言も役に立つ。ひとり目の子育てで気負いして過干渉になり後悔したが、長男が大人になってかけてくれた言葉に、あの時、がんばっていた自分を受け入れることができたこと。ひとり暮らし中に干渉しなかった次男は今、妻と協力して家事や育児をしていること。「いい母親になる」を手放す、心配しない、子どもの領域に侵入しないことなどのメリットも、人生の再スタートのために過去を振り返る著者の言葉だからこそ、説得力をもって読者に届く。

 今すぐに人のためにしていることを減らせない、という読者もいるかもしれない。しかし、人生の軸を「誰か」から「自分」に引き戻すという考え方は、今すぐに始めることができるのではないだろうか。人に頼ったり、家事を外注したりといった、わずかな突破口から新しい風景が見えることもあるだろう。「誰かのために」を手放すのは、どんな世代にも開かれた人生に変える手段だということを、丁寧に教えてくれる1冊だ。

文=川辺美希