ダ・ヴィンチ編集部が選んだ「今月のプラチナ本」は、石田夏穂『ケチる貴方』
更新日:2025/1/10

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2023年4月号からの転載になります。
『ケチる貴方』
●あらすじ●
備蓄用タンクの工事会社に勤める主人公・佐藤の悩みは冷え性。末端を中心に、寒気を常時感じながら、新人の教育業務や職場で頼まれるちょっとした手伝いに面倒臭さや不機嫌さを隠せない。しかしある時、会社の送別会費用としてやむを得ず身銭を切ったところ、突如身体に温かさを感じるようになり……。(表題作) 第38回大阪女性文芸賞受賞の「その周囲、五十八センチ」も同時収録。
いしだ・かほ●1991年埼玉県生まれ。東京工業大学工学部卒。2021年「我が友、スミス」で第45回すばる文学賞佳作。同作は第166回芥川賞候補にも選出された。22年「ケチる貴方」が第44回野間文芸新人賞候補作となる。
- 石田夏穂
講談社 1650円(税込)
写真=首藤幹夫
編集部寸評
身近な友は真の友
未だ脳裏に浮かぶ『我が友、スミス』のラストシーン。会社員女性の目線から語られる、身体と仕事。その傍らにはスミスというトレーニング器具があった。本作もまた、“友”の存在が鍵を握る。極度の冷え性と脚だ。友達とは、切っても切れないもの。ステレオタイプをいとも鮮やかに掃き捨てる石田さんの小説はシニカルなようで、物言わぬ友との摩擦が起こす“熱”をはらむ。人生が「折檻」と「ダウンタイム」の繰り返しであるとすれば、本作はたしかな「再生」を予感させるものだ。
川戸崇央 本誌編集長。動画クリエイターのコウイチさんによる本誌連載小説「スピンオフな町」が改題&大幅改稿『計画書』として刊行。インタビューは152P!
厄介な身体と生きてゆくエネルギーに満ちた2編
冷えと脂肪。女の身体における二大強敵を扱った2編どちらも圧巻の素晴らしさだが、後者とより緊密に格闘してきた者として「その周囲、五十八センチ」は衝撃作だった。厄介な身体に生まれ落ち、血反吐を吐くような努力で脂肪吸引を重ねてきた〈私〉に、執刀医は語りかける。「あなたが人よりうんと頑張れる人になれたのは、その脚のお陰なんじゃないかと思うわ」。社会の規範を「こびりつくほど内面化」し、果てなき闘いを続けてきた身体を思いもしない形で肯定され、全私が泣いた。
西條弓子 川上未映子さん特集、とても贅沢な内容となりました。「私たちは常に、何かを、誰かを、とりこぼしながら生きている」というお言葉を胸に刻む3月。
毎回テーマに至極惹かれる
私が筋トレにハマっていた時期に夢中で読んでいた『我が友、スミス』、「冷え」「脂肪」がテーマの本作も然り、著者が執筆する作品の「観点」は新しくて、とにかく面白い(特に女性は惹かれるのでは)。両作品とも主人公は「自分の身体(部位)」へのとてつもない執着があり、変わることへの依存があり、それを経ての気づきがある。素敵なのが、その執着や依存を否定しないこと。著者の作品を読むと、自分を大切にしたら自分の身体は裏切らないことを、思い出させてくれる。
村井有紀子 次号は担当誌面が盛り沢山。予告参照「大泉洋特集」企画にて編集人生で一番面白い取材が出来て……。養老先生×星野さん対談も癒されます。ぜひ!
自分の身体と黙々と対話する
誰もが避けては通れない身体をテーマに、今作は「冷え」と「脂肪」に向き合う。前作の『我が友、スミス』も然り、石田さんの描写する身体は、ユーモラスだ。「まさかり担いだ金太郎の逞しさ」など他人事と思えない。黙々と自分の身体を観察し対話する主人公、そこには悲壮感も他者の視点もない。しかし、寛容という意外な温活方法を手に入れた主人公が、内面の変革を迫られる。内面と身体とがせめぎ合う不器用なさまが、コミカルに描かれる。笑いながらエールを贈りたくなる作品。
久保田朝子 石田夏穂さんに、先月の「本と筋肉は裏切らない!」特集でインタビューさせていただきました。作品の描写のようにユーモアあふれる方でした。
自分の太もものサイズ、知ってますか?
この本を書店で手に取ったとき、「私が探していた本はこれだ!」とビビッときた。特に強く惹かれたのが、「その周囲、五十八センチ」。太ももの太さに悩む主人公は、ストイックなまでに自分の身体の脂肪を抜き取っていく。頑張れば結果が出る、とお金を貯めては脂肪吸引する姿に、“自分を変えたい”理由の多様さを思い知った。人の悩みは目に見えない。今まで考えたことのなかった視点に気付くきっかけをくれるのは、読書の醍醐味だ。本書を読むと、身体に対する解像度が変わります。
細田まりえ 先日、超繁華街の中に文芸書がすごく充実している書店さんを発見。陳列されている本が全て自分にベストマッチ。推しの本屋さんと出合えました!
変わらない世界で、それでも生きる
本作に収録されている二編は、どちらも身体にまつわる物語だ。極度の冷え性に悩みながら、ある日寛容さが体温に直結すると気づいた女性と、脚の太さをコンプレックスに脂肪吸引を繰り返す女性。二人の身体の変化は、彼女たち自身の意識にも“ある種の変革”をもたらすが、その一方で、二人が生きている世界は何も変わらない。生きづらさを抱えながら日々を送る彼女たちの姿を通して、このどうにもならない社会で不器用にも生きていく、その様を見たような気がするのだ。
前田 萌 家で仕事に行く準備をしていると、空気を察して自らベッドに入る愛犬。上目遣いで様子を伺うその瞳は拗ねているかのよう。罪悪感に苛まれます。
絶妙なバランス感で描かれる〈私〉たち
冷え性の〈私〉と、太腿の脂肪吸引がやめられない〈私〉を描いた2編から構成される本作。自身の“身体”にそれぞれ悩み、とはいえ切り離すことのできないその身体との付き合い方を模索しながら生きる日々が描かれる。「その周囲、五十八センチ」で、脂肪吸引後の痛みに対して「この強烈な筋肉痛のような痛みは、私に生きる手応えをもたらす」と〈私〉は語る。この一文から滲み出る、強さと繊細さ。この絶妙なバランス感が癖になり、最後には彼女たちを愛おしく思える一冊だ。
笹渕りり子 学生時代は少しの食事制限で減量できたのに、近頃はその“少しの食事制限”が難しい。夜中に食べる塩焼きそばとお酒がやめられなくて……。
寒がるのに“相応しい”外見
「何で私はこんなにガッチリ、ムッチリしてるのに、寒がりなんだろう」。傷つけるつもりはなくとも、無意識に外見と内面を結び付けてしまうことはあると思う。主人公はそういう周囲からの視線を感じ、自分でも疑問に思いながら、一人で必死に「冷え」に耐えている。ある時彼女は冷えの劇的な解消方法を見つけ、それを実践するうちに見た目や性格も変化していく。そんな彼女に対する周りの態度や眼差しの変化が、なんとも薄ら寒い。冷えの描写の巧みさと相まって、鳥肌が止まらない作品。
三条 凪 本書収録の「その周囲、五十八センチ」に触発され太ももの周囲をメジャーで計測。脂肪吸引をする勇気はないのでとりあえず着圧タイツから……。
前半と後半の「温度差」を楽しむ
冷え性でドケチな主人公。前半は共感の嵐だった。ここ最近、寒さで太ももに手を挟まないと眠れないほど冷え性の私は、ほぼすべての冷え性描写にうなずきが止まらない。しかし、そんな前半から打って変わって、作品後半の自分で温かさを感じるためだけに生まれた主人公の変化が、「女性らしさ」として周囲から良いように解釈・消費されていく様子はあまりにも生々しい。共感でぽかぽかした脳に、一気に冷や水を浴びせるような展開。この「温度差」をぜひ味わってほしい。
重松実歩 冷え性改善もあり、サウナにハマっています。サウナ後、一気に飲むお酒ほど美味しいものはないのですが、逆に体を冷やしている気もします。
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