三石琴乃さんが選んだ1冊は?「自分の中の虚しさを埋めてくれた一冊。今も読み返すたびに印象が変わります」
公開日:2023/4/15
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2023年5月号からの転載になります。

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、三石琴乃さん。
(取材・文=倉田モトキ)
「大人になってからも、ときどき自分の中で絵本ブームが沸き起こるんです。この本との出会いも20代後半の頃でした。今もたまに読み返しますが、年齢を重ねるごとに印象が変わっていくのも面白いですね」
三石さんがおすすめするのは、40年以上に渡って世界中から愛され続けている『ぼくを探しに』。丸い顔に目がついただけのシンプルな表情の主人公が、《何かが足りない それでぼくは楽しくない》と、自分に欠けているかけらを探す旅に出る物語だ。
「本を手にした当時は仕事もプライベートも充実していました。でも、どこか自分に足りないものや虚しさを感じることがあって。それを埋めるために読んだ記憶があります」
主人公はころがりながらゆっくりと旅を続ける。雨や風の自然を感じ、花を愛で、虫たちと会話を重ね、ときに楽しく歌を口ずさみながら。
「やがて、いくつかのかけらと出会うのですが、ハッとさせられるのは、ピタリと合うかけらを大切にしすぎるあまり壊してしまうんです。しかも、次のページでは粉々になったかけらをそのままにして行ってしまう。“そうか、私も大事にしていたものに対して、気づかないうちにこんな酷いことをしてきたかもしれない”と思いました。たまには自分がやってきたことを振り返ってみようって」
三石さんがこのたび、上梓した『ことのは』。これまでの半生や仕事へのポリシーが綴られた本書は、まさに自身を振り返る旅だったという。
「大変な作業でしたけど、それ以上に楽しかったです。文字になると、また違った見え方がして、自分の過去の話なのに新鮮さを感じたり(笑)。夜中に原稿チェックをしていたら、どんどんハイになって、“あんなこともあったなぁ”と芋づる式にいろんな記憶が甦ってきました」
優しく、ユーモアに溢れ、チャーミング。読み手をほっこりさせる文体には三石さんの人柄が表れている。
また、何より目を引くのが、仕事や夢との向き合い方や真摯な姿勢だ。
「私は普通なので、コツコツ頑張るしかなかったんです。『美少女戦士セーラームーン』や『新世紀エヴァンゲリオン』など多くの代表作と巡り合うことができましたが、一つひとつの軌跡が線になって華やかに見えるだけで、私自身はいつも目の前にある仕事に必死なだけでした。決して天才なんかじゃないし、選ばれた人間でもない。どんなことでも大事なのは常に努力。それもこの本を通して伝えたかったことの一つですね」