ダ・ヴィンチ編集部が選んだ「今月のプラチナ本」は、高瀬隼子『いい子のあくび』
更新日:2025/1/10

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2023年9月号からの転載になります。
『いい子のあくび』
●あらすじ●
向かいから人が来ていることや、来客用のお茶が切れていること。子どもの頃から、人より“気づく”のが早かった直子は、余計なことをしたと思われないよう、さりげなく“いい子”であるよう気を配り続けてきた。その反面、自分ばかりが背負わされることに、割の合わなさを感じてもいて……(「いい子のあくび」)。表題作ほか、「お供え」「末永い幸せ」の2編を収録。
たかせ・じゅんこ●1988年、愛媛県生まれ。立命館大学文学部在学中に文芸サークルに所属し、小説の新人賞に投稿を始めた。会社員勤めしながら書いた『犬のかたちをしているもの』で2019年にすばる文学賞を受賞しデビュー。21年、『水たまりで息をする』が芥川賞候補となり、翌年『おいしいごはんが食べられますように』で同賞受賞。
- 高瀬隼子
集英社 1760円(税込)
写真=首藤幹夫
編集部寸評
右手で悪意を投擲し、左手で善意を守る
私の身長は日本人男性のほぼ平均らしいが、人にぶつかられたり、舌打ちされることはわりにあるようだ。「同じ人混みでも(中略)駅の人混みだけが、人の悪意を表出させる」。むき出しにせざるを得なかったんだな、そう思ってしまう。自分は損をしている。そんな気持ちが浮かんでしまったとき、小説は良い。この感情を、知っているかもしれない。違うかもしれないけど、少なくとも自分的には。それが許される。やりきれないとき、小説はぶつかっても怪我をしない。だから良いのだ。
川戸崇央 本誌編集長。今秋開校予定の「ダ・ヴィンチゼロイチスクール」、講師第一弾を162Pにて発表。こうした新企画にご協力くださる皆さまに感謝の雨。
「ぶつかったる」と思ってからが勝負かも
「顔をあげて前を向いて歩いている人ばかりが、先に気付く人ばかりが、人のぶんまでよけてあげ続けなきゃいけないってことになる」。直子の主張はもっともだ。片方が割に合わない思いを続けるのは理不尽すぎる。しかしそれが「ぶつかったる」という攻撃性として発露すると、世界は途端に殺伐とする。ミクロな人間関係の話としても、社会の在り方の話としても読める。読み進めるほど正しさの在処を見失い、どうしたらいいかわからなくなり、辿り着く先は……希望あるラストでした。
西條弓子 鈴木涼美さんの連載「めめSHEやつら」が開始! 様々な作品を題材に女の人生のアレコレを綴って頂きます。初回からわかりみすぎて変な声出た。
理不尽と出会ったときにどうする?
主人公にとっての人間関係は“一定期間の接近と離反、その繰り返し”だし、友人によって望まれているであろう人格を使い分けることで、その関係を保っている。「前を向いてまっすぐ歩く人だけが、よけていくべきなんだろうか」直子が抱え続ける悲痛な思いは、何らかの形で心に潜んでいるのだろう。直子の場合は「ぶつかったる」だが、理不尽や不公平と出会ったときの解決方法は人それぞれ。直子のそんな行動が、私たちの声にならない思いをほんの少し楽にしてくれた気がする。
久保田朝子 「‐スタジオツアー東京‐メイキング・オブ・ハリー・ポッター」に伺いました! 何時間でもいたくなるような、素敵な空間でした。
「怒りの温度」がどんどん上がっていく
とにかく「いい子のあくび」がすごい。今年読んだ本のなかで、一番衝撃的な出会いになった。誰しもが心のなかでうっすら抱いている“私だけ損してる”“こっちのこと馬鹿にしてるんでしょ”そんな、端っこに澱のように溜まっていく感情を痛いくらい正面から描写している。直子は体調の悪い老人に水を差し出すことができる。同じ身体で、「ぶつかったる」と動く。この二面性、私のなかにもないか。もう一人の自分が、じっと見つめてくる。もう一生、この本のことを忘れられない。
細田まりえ 特集の内容に惹かれ、ある雑誌を買いました。数日後、また「面白そう!」と感じた雑誌を購入。帰宅してびっくり! 同じものを2冊買っていました。
この“割に合わなさ”をどう思うか
スマホを覗き込みながら自転車に乗る中学生を前に、直子は思う――「ぶつかったる」。社会の“割に合わなさ”に憤る彼女は、その心中で様々な思考を巡らせている。「なんで、ぶつかったる、って思ったんだっけ」「こちらの存在に気付かせて向こうによけさせたら良かったのかもしれないけれど」「あの中学生に、わたしが何かしてあげるのは、なんか、おかしい」「よけなくて良かった」。リアルな彼女の思考に自らを重ね合わせながら、私だったら……と考えずにはいられなかった。
前田 萌 マンガに話題を絞った媒体『まんが盛り盛りダ・ヴィンチ』が新刊行。表紙は『キングダム』(集英社)より天下の大将軍・王騎!!! 注目の1冊をぜひ。
自分の中の多面性に自覚的になれるか
主人公・直子の頭の中は攻撃的な言葉であふれている。怒りや不快感を手帳に書きつけては「忘れない」「許さない」と心に誓う。一方で、大学時代からの友人の前ではそれらの怒りを「過剰に乱暴なことば」で面白おかしく話し、他の友人の前では「特別にいい子」を演じる。そんな日々を送る直子はこう思う。「心は、どうしてこんなにばらばらなんだろう」。作中の直子の心情と自身を照らし合わせて複雑な気持ちを抱く。自分の中に潜んでいる多面性を大いに自覚させられた一作だった。
笹渕りり子 戸塚純貴さんとくどうれいんさんの連載「登場人物未満」がスタート。戸塚さんが被写体として、くどうさんが言葉で紡ぐ物語をぜひご覧ください。
「わたしは、やっぱりいい子なんじゃないの」
人から求められる自分をさっと差し出せてしまう「いい子」の直子。一方で、自分の親切や心配りが当たり前のように“消費”されることを「割に合わない」とも思っている。この2つが同居することが、リアルだ、と思う。「うらおもて、って言うけど、別にどっちも表だ」。「いい子」の描写は、自分の打算的な部分が露呈してしまったようでなんだか後ろめたい気持ちになるが、「いい子」でいるときだって、その言動が全て嘘というわけではない。戦友を見つけたような、そんな一冊だった。
三条 凪 毎年日焼け防止策はクリームだけなのだが、今年は守り切れていない気がする。移動時は両手をあけたいのだが、いい加減日傘を持てということか……。
わかる、いやわかってしまう。
“いい子”というのは周りからの感謝も多く受け取るし、率直に言って何よりの処世術なのだと思う。しかし、同時にいい子は一種の枷であり、いい子たちの見えない善意に課せられる責任と社会からの期待はあまりに重い。人が絡み合う面倒な人生を少しでも生きやすくするために選んだいい子としての生き方。しかしそれは同時に自分を縛り付け、少し息苦しくさせる。自縄自縛でもがく、社会にいるたくさんの頑張る“直子たち”が、本作を読んで、少しだけ自身に優しくできたらと願う。
重松実歩 山岸凉子さんの企画を担当しました。『テレプシコーラ/舞姫』をきっかけにダ・ヴィンチを読み始めた私にとって、夢のような時間でした。
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