ホモ・サピエンスへの第一歩。アウストラロピテクスの生態/AIは敵か?⑧
公開日:2023/12/20
『AIは敵か?』(Rootport)第8回
AIに仕事を奪われる! 漠然と抱いていた思いは、「ChatGPT」のデビューによって、より現実的な危機感を募らせた人も多いのではないでしょうか。たとえば、バージョンアップしたGPT-4のアドバイスを受ければ、プログラミング経験のないユーザーでも簡単なアプリを作れるほど高い精度を誇ります。では、⽣成AIが登場し、実際に人々の生活はどうなるのか。本連載『AIは敵か?』は、マンガ原作者でありながら、画像生成AIを使って描いた初のコミック『サイバーパンク桃太郎』(新潮社)を上梓したRootport(ルートポート)氏が、火や印刷技術といった文字通り人間の生活を変えた文明史をたどりながら、人とAIの展望と向き合い方を探ります。

アウストラロピテクスの登場
直⽴⼆⾜歩⾏をする類⼈猿の中で、この時代にもっとも成功した動物がアウストラロピテクスでした。およそ400万年前〜100万年前のアフリカに暮らしていた猿⼈です。現⽣のホモ属が私たちサピエンス1種なのに対して、アウストラロピテクス属には約10種が知られています。彼らはまず間違いなく、私たち現⽣⼈類の祖先だと⾒做されています。
しかし、もしも彼らが今もまだ⽣き残っていたとしても、⼈間として選挙権を認められることはなかったでしょう。動物園の檻の中で飼育されることになったはずです。その外⾒は「直⽴⼆⾜歩⾏するチンパンジー」という形容がぴったりでした。
アウストラロピテクスの体⽑はまだ薄くなっておらず、全⾝が⽑⽪で覆われていたと想像されています。脳容量は(やや⼤きいものの)チンパンジーと同程度で、⼝吻はゴリラやチンパンジー、オランウータンと同様に⼤きく前に突き出していました。平均⾝⻑は1.1〜1.4メートルほど(※1)。現代の私たちのように俊敏に⾛ることはできず、敵に襲われたときや夜間の就寝時には⻑い前⾜で⽊に登って安全を確保していたとみられています。
アウストラロピテクスと現代人との共通点
その⼀⽅で、アウストラロピテクスは私たちにも共通する特徴を、すでに数多く持っていました。先述の通り、⼟踏まずのある扁平な⾜を持ち、後肢で枝を掴めるという類⼈猿の特徴を失っていました。⾻盤はお椀やボウルのように広がっており、直⽴した際に内臓を下から⽀えることができました。また、⼀歩ごとの衝撃を吸収できる、⼤きく発達したかかとの⾻を持っていました。さらに、直⽴時に上体を安定させるための(横から⾒ると)⼸型にカーブした腰椎を持っていました(※2)。これらの特徴は私たちホモ・サピエンスにも受け継がれています。
アウストラロピテクスの⽣態は、その⾻格から推測可能です。彼らはがっちりした頬⾻と⼤きな⾅⻭(奥⻭)を持っていました。また、理科室の⾻格標本を⾒たことがある⼈なら分かる通り、ホモ・サピエンスの肋⾻は樽のような形状に組み⽴てられています。⼀⽅、アウストラロピテクスの肋⾻はすその広がった、逆さにしたプリンのカップのような形状に配置されていました。これは彼らの消化器官が(体重⽐で)現⽣⼈類よりも⼤きかったことを⽰唆しています。彼らは⻑く頑丈な胃腸を持っていたのです。
ここから想像できるのは、彼らがかなり硬いものを⾷べていたということです。チンパンジーは果実を主⾷としています。⼀⽅、森林を追われたアウストラロピテクスたちは、でんぷん質の多い塊茎や根を主⾷にしていたと⾒られています(※3)。⼤きな⾅⻭と頬⾻は、⾷物繊維の多いエサを時間をかけて嚙み砕くための適応でした。
脳の容量から⾔って、アウストラロピテクスはチンパンジーと同じかそれ以上に賢い動物でした。地上に⾒えている植物から地下の様⼦を想像してエサを探すことなど、お⼿のものだったでしょう。⽊の棒などを道具として使って、⼟を掘り返すくらいのこともできたはずです。
隠れ家の多い森林に⽐べて、開けた場所では⾁⾷獣に襲われるリスクが⾼くなります。このような場合、哺乳類は群れのサイズを⼤きくすることで対抗します(※4)。個体数が増えるほど外敵に襲撃されにくくなるからです。この法則がアウストラロピテクスにも当てはまるとしたら、彼らはチンパンジーよりも⼤きな群れを作って⽣活していたかもしれません。これが、ホモ属の協調性や協⼒⾏動の萌芽に繋がった可能性はあります。
約500万年前、私たちの祖先はチンパンジーの祖先とは別の道を歩み始めました。そして約400万年前にはアウストラロピテクスが現れ、ホモ・サピエンスへと続く進化の旅の第⼀歩を踏み出したのです。⼆本の⾜で。
※1『人体600万年史 科学が明かす進化・健康・疾病』(ダニエル・E・リーバーマン/早川書房 2015年)上巻P86
※2『人体600万年史』(ダニエル・E・リーバーマン/早川書房 2015年)上巻P103~104
※3 ダニエル・E・リーバーマン『人体600万年史』(ダニエル・E・リーバーマン/早川書房 2015年)上巻P99
※4『文化がヒトを進化させた 人類の繁栄と〈文化-遺伝子革命〉』(ジョセフ・ヘンリック/白揚社 2019年)P445
<第9回に続く>マンガ原作者、作家、ブロガー。ブログ「デマこい!」を運営。主な著作に『会計が動かす世界の歴史』(KADOKAWA)、『女騎士、経理になる。』(幻冬舎コミックス)、『サイバーパンク桃太郎』(新潮社)、『ドランク・インベーダー』『ぜんぶシンカちゃんのせい』(ともに講談社)など。2023年、TIME誌「世界で最も影響力のある100人 AI業界編」に選出される。