19世紀のバレリーナは消費される存在――そんな背景を吹き飛ばす、バレリーナの少女と実在の画家をモチーフに描いた『筆先のエトワール』
PR 公開日:2023/12/21

現代のバレリーナは子どもたちにとって夢の職業だ。子どものころからバレエを習い、女性であれば舞台の主役であるプリンシパルを目指す人も少なくない。そんな彼女たちを描いたバレエ漫画はたくさんある。
ところが時代をさかのぼり19世紀のヨーロッパでバレリーナはどのような存在だったかと言うと、その社会背景からして現代とは異なっていた。バレエを習う少女たちは貧しい家庭の娘であり、お金持ちの観客の愛人になるバレリーナも数多くいた。こういった観客はいわゆるパトロンと呼ばれる存在で、バレリーナやバレエ団にとって不可欠なスポンサーだった。
そんな19世紀フランスのオペラ座を舞台にしたのが『筆先のエトワール』(鴨まどり/白泉社)である。主人公はエマ、バレエをこよなく愛するバレリーナであり、彼女はある欠点に苦しんでいた。踊っていると、幻覚が見えるほどバレエの役や世界観にのめり込んでしまうのだ。過去に、その想像力によって振り付けまで変えてしまい、バレエを辞めさせられそうになったエマは、あえて世界観を想像しないように意識して踊るようになった。そして彼女の周囲には、パトロンを持つバレリーナもいる。これは19世紀におけるフランスのバレリーナそのものだ。


ある日、エマの前に画家の青年・エドガーが現れる。描きあげても自分の納得のいかない絵は燃やすと話す彼の画家としての思いは、エマのバレエに対する愛情と重なるものがあった。


この人にも 真剣に打ち込んで 届かなくて苦しいものがあるんだ
エマは、エドガーからバレエの世界に没入できるのは欠点なのかと問いかけられたことをきっかけに、想像力をはばたかせバレエを踊るようになる。そこからエマのバレリーナとしての人生が本格的に花開く。エドガーはそんなエマの姿を描き、次第にふたりは惹かれ合っていく。
エマとエドガーのほかにも魅力的なキャラクターが登場する。まずはバレリーナのジナだ。自分に与えられた役の動きを研究して真摯にバレエと向き合う彼女は、エマの良きライバルだ。ほかにもエマを大役に抜擢するオペラ座の支配人、1巻の終盤で登場する謎めいた青年など、これからストーリーに深く関わってきそうな人物が続々と登場する。


エマが踊りながら役に没入するように、読み進めるうちに私たち読者も、『筆先のエトワール』にのめりこんでいるかもしれない。
文=若林理央