2024年春に映像化『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』。東京の空に浮かぶ「侵略者」と呼ばれる母艦と女子高生2人の青春
更新日:2024/2/23

戦場で暮らす人々を、現地のジャーナリストがカメラで撮影するドキュメンタリー映画を見る機会があった。戦争を経験したことのない私は、戦場にいる人々はみなここから逃げたいと思いながら過ごしているのではないかと考えていたのだが、ジャーナリストが知り合いの10歳くらいの少年にインタビューするシーンで、いつもと変わらない様子でふたりが周囲で爆発音がとどろく部屋のベランダに出たことにまず驚いた。続いて少年が口にしたのは、「生まれ育ったこの街から出たくない。友だちと離れ離れになりたくない」という内容だった。爆発に怯えない姿も「街から出たくない」という言葉も、戦場で育った子どもの日常的な姿なのだと痛感した。そこでは毎日のように子どもも含めた多くの人が、爆発に巻き込まれたり撃たれたりして死んでいく。インタビューを受けた少年も、後に家族と共に街から出るのを余儀なくされた。
世界では今も戦争のただ中にある国が数多く存在している。日本人は平和ボケしていると言われるが、もしこの平和が、突然脅かされた時、私たちの日常はどのように変化するだろうか。近くにある危険がなかなか襲い掛かってこなければ、爆発音に怯えることなく話していた戦地の子どものように、いつしか恐怖心も麻痺するのではないだろうか。
漫画『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』(浅野いにお/小学館)を原作とした映画が、2024年春、前章と後章に分けて公開される。舞台は東京、物語が始まる3年前に「侵略者」と呼ばれる大きな母艦に襲撃されている設定である。現在、侵略者の攻撃は収束していて、人々は平和な日常を取り戻したかのように見えた。空には「侵略者」が浮かんだままなのだが、それすらもう日常に溶け込んでいる。本作のメインキャラクターである女子高生の小山門出(こやま・かどで)と、彼女の親友である中川凰蘭(なかがわ・おうらん)も例外ではない。門出は友だち付き合いや担任教師への片思い、受験のことで頭がいっぱいで、彼女の姿は、今の女子高生たちの日常となんら変わりない。
空に浮かぶ侵略者は明らかな脅威のはずなのだが、常に恐怖心を抱いていると人間は精神的に疲弊する。戦地の少年と同じように、彼らの心は恐怖心を忘れたふりをすることで自衛していたのかもしれない。しかしある日、突然門出と鳳蘭は友人のひとりを失い、物語のテロップは人類滅亡までに残された時間はごくわずかであることを告げる。
2014年に発表された漫画でありながら、これは今の日本の状態を示唆しているように思えてならない。ミャンマーのクーデターやロシアのウクライナ軍事侵攻はまだ終わらず、イスラエル・ガザ戦争もパレスチナとイスラエルの対立がまだ終わっていないことを世界に知らしめて、それらの争いすべてで多くの死者が出ている。ロシアのウクライナ侵攻に関しては日本人も脅威を感じて最初は注目していたが、戦いが長く続くとそれは日本とは関係のない、遠い国の戦争であるかのように報道は減っていった。これは、明らかな脅威である侵略者が空に存在しているのに、攻撃がなくなったからと油断して日常生活を送る本作の人々と似通っている。私が本作序盤で抱いた平穏な日常に対する違和感は、読み進めるにつれて現実のものとなってふくらんでいった。
なぜ門出と鳳蘭の友人は死ななければならなかったのか。
彼女は何か悪いことをしたのだろうか。
理由は何もない。ただその時、その場にいたからという理由だけで彼女は死んだのだ。
実際の戦争で命を落とす人たちもそうだ。ただ、あの時、そこにいたから巻き込まれた。「平穏な日常」がいかにもろいか、そこで痛感する人もいれば、時と共に再び日常を取り戻していく人もいる。門出と鳳蘭は、友人の死後、日常を再び取り戻すが、それは嵐の前の静けさにすぎなかった。
私が作者の浅野いにおさんの作品で印象に残っているのは『おやすみプンプン』(浅野いにお/小学館)である。この漫画も、後半、戦争とは異なる理由で主人公の平穏な日常は奪われるのだが、そこでも大切な人の死は突如として主人公に降りかかる。生と死が遠いものではないと暗喩している点では、本作と『おやすみプンプン』は近いものがある。
門出と鳳蘭の強い結びつきは、日常に非常事態が訪れた時、どこに行きつくのか。私は映画で再確認してみたい。人生はうまくいかないことがほとんどだ。とはいえ私は、不可抗力でその日常が壊されて近しい人が亡くなる経験をしたことがない。しかし、その「平和」がいつまでも続かないことを予感している。だからこそ、門出と鳳蘭を見ると、彼女たちが自分と重なっていくような気分になるのだろう。今の世界はどんどんと戦争が身近なものになり、遠くない将来、日本には大きな災害が訪れることも立証されている。それまでどのように毎日を過ごすか。本作は、その答えを導き出すヒントも眠っているように思えた。
文=若林理央
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