子育て施策で「住みやすい街」を実現した元・明石市長の泉氏の生き方。敵だらけだった政界との戦い方とは
更新日:2024/2/29

2023年4月30日、兵庫県明石市の市長を12年にわたって務めてきた泉房穂氏は退任しました。翌日の5月1日に出版されてロングセラーが続いているのが『政治はケンカだ!明石市長の12年』(泉房穂/講談社)です。ジャーナリストの鮫島浩氏が聞き手を務め、幼少期から振り返っていくような形で、泉氏の政治にかける思いが紡ぎ出されていきます。
「ケンカ」という題名に入っている言葉のイメージとは相反して、子育て施策や「住みやすい町」として評判を集めてきた明石市。そのトップの役目を終えた泉氏は、本書が記された当時どのような思いを抱いていたのでしょうか。
思えば私の市長時代は、総スカンの6年から、周囲の目が変わった3年、認識が広がった3年と続きました。次のステージへ向けた今の心意気は、かつて小中高の12年を終え、地元明石から上京した頃のように、やる気に満ちています。さあ、やるぞ! って(笑)
泉氏の出身は明石市の西部の漁村・二見町。生活は貧しく、理不尽な差別が存在していたといいます。「冷たい社会を優しい社会に変える」。少年の頃から今でも座右の銘となる思いを抱き始め、明石市長を志しました。大学を卒業して、テレビ局のディレクターとして働いた後、弁護士資格をとり、民主党から立候補して衆議院議員になり、47歳で念願叶って市長になりました。
著者は四面楚歌(まわりが敵ばかり)という状況に陥ったとき、当惑するのではなくむしろ盛り上がるといいます。そんな状況下でも「庶民は自分の味方だ」という確信が、肌感覚であったからです。この人ならわかってくれる。この人に話を聞いてもらいたいと思ってもらえる存在を目指し、政界に「ケンカ」を持ちかけ、市民の支持を強めていきました。
テレビ局勤務時代に「情報発信する側」だった経験は、思わぬ形で2010年代の市長生活に武器をもたらします。ツイッター(現:X)です。
自分がツイッターをやっていて実感するのは、やっぱり受け手はよく見ているということ。私の強みは、現職の明石市長として実際にやったこと、その実績なんです。抽象的な話ではなくて、「明石ではこうやりました。そしたらこんな結果になりました」と実績で語る。情報の受け手は、欠点も含めて発信者のトータルの人格を見ている。その中で、情報の信用度も測るわけですが、何よりも説得力を持つのは「実績」や「結果」だと実感しています。
2023年12月末時点では57.1万人のフォロワーがいる泉氏のアカウントは、引き続き強い影響力を持つことでしょう。「明石市でできたこと(例えば旧優生保護法の被害を救済する条例等)は、他の場所でも実現できる」という考えのもと変革の輪を広げていくことが、今後の泉氏の活動の軸となると本書は予感させてくれます。
聞き手に対して話す形式をとっているため、関西弁バリバリでスピーディーなトーンで本書は進んでいきますが、「故郷・明石のことを心から憎み、愛している」というような含蓄あるキーフレーズを語る際は、スローダウンして丁寧に語られています。誰よりも明石について知っている。だからこそ、いまだに消えない理不尽に対して、強い憎しみを抱いている。そんな深い心の機微に触れることもできます。焚き火に手をかざすように、泉氏の「熱さ」にあやかりたくなる一冊です。
文=神保慶政
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