SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第36回「レイトショー」

エンタメ

公開日:2024/6/27

 私の隣に。

 

 なんでだよぅ!

 実際に声に出さなかった私はすごく偉い。

 いやいや、本当になんでだよ。俺のあとでチケット買ったわけだからたくさんの白い四角のど真ん中に黒い四角が一つあるのをみたはずだよね。あれエ、なんでここの四角だけ黒いんだろうなアって首を傾げながら、隣の四角をなんとなく押しちゃったのかな。それならすんごくかわいいね。

 どこに座ろうが自由だし、別に隣に席を取っていけないルールなんてない。でもここまでがら空きの映画館でわざわざ隣に誰かいる席を選ぶ心理が全くわからない。

 でも。もしかしたら。おばさんからしても不測の事態だということもある。すごく焦っていたとか、操作ミスであるとか。まさか隣に誰かいるなんて、って困惑している可能性もある。というかそうでなければ、おかしい。そうであってくれ、という願いも込めておばさんの様子を伺うと、然もありなんといった具合で、普通にしている。動揺している様子も、一つ席をあけて座り直そうかな、と思案している様子もない。

 なんでだよ。色々本当になんでなんだよ。

 こうなってしまったら、もう気になって駄目だ。価値観っていうか、もはや倫理観っていうか、そういうのがあまりにも自分と乖離していると、私は手前側の感情を通り越して一抹の恐怖まで覚えてしまう。理解出来ないものが私の隣にいるこの状態で映画に集中するなんて不可能だ。

 私は涙ぐみながら特等席を立ち、二列後ろの真ん中から少し左に寄った席に移動した。おばさんは私が席を立ったことにも、なんの興味も示さず、相変わらずものすごく普通だった。

 

 真っ暗な映画館にフランキー・ヴァリの高音が響く。ことある毎におばさんの後ろ姿を見てしまう。なんだこれは。恋か。

 シェリー、ベイビー、君を見てるとクラクラしてくるよ。

 

 おかげでしっかりと記憶に残ったこの映画。断片的に差し込まれるおばさんの後頭部も案外良い味出してくれてる。やはり映画の醍醐味は映画館にこそあると思う。

 だから今でも、私の密やかな楽しみの一つに、レイトショーを観に行くというものがある。

SUPER BEAVER渋谷龍太

<第37回に続く>

あわせて読みたい

しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。2025年4月に結成20周年を迎え、SUPER BEAVER 自主企画「現場至上主義 2025」を4月5日、6日にさいたまスーパーアリーナで行い、さらに、6月20日、21日に自身最大規模となるZOZOマリンスタジアムにてライブを行うことが決定。

自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中