SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第40回「恋は盲目」

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公開日:2024/10/27

「私、A子じゃないですよ」

 私は止まる。なんだ、ミステリーなのか、理解が追いつかない。今女の子が言った言葉を脳内で反芻し、小さく動揺した。シックスセンスを一番始めに見た時と近い感覚だった。一人だけ取り残された気分だ、露骨に狼狽えながら私は訊いた。

「え、なに、あなたA子ちゃんじゃないの?」

「はい、違いますよ。A子ちゃんはさっきまでここに立ってた子です。二時間前に上がって、私が交代で入った感じですね」

「代わったのに気付かれてないってこと?」

「そうなんじゃないですか」

 A子ちゃんと呼ばれていたA子ちゃんではない女の子は、聞き分けのない子供を見るような視線をおじさんに送り、丸一日飲んでるし、と呆れた様子で言った。

 わアすごい。漫画みたい。どんな漫画かは知らないが漫画みたい。人違いしたままここまで恋の持論を展開させられるなんてすごい。私は半分寝ているようにゆらゆら揺れているおじさんの肩をバンバン叩いて言った。

「ねエ、ちょっと。あの子A子ちゃんじゃないらしいですよ」

「え」

「A子ちゃんじゃないんですって、あの子」

 それを聞いたおじさんは、やおら顔をあげて、女の子の顔を凝視した。考えてるのか、何も考えていないのか、たっぷり間を置いてからボソッと呟いた。

「まア」そう言ってタバコに優しく火をつけ、煙と一緒に「誰でもいいや」と言葉を燻らせた。

 ありがとうございます。この展開だもんね、それくらいいい加減な言葉を聞きたかったんです、ありがとう。最高です。私はおじさんに向けてグラスを掲げた。

「先輩、乾杯っす」

「あのなア」

「はい」

「恋は素晴らしいんだ」

「へエ、まじすか、すごいっす」

 マニュアル全部乗せで私は応じた。

 おじさんがこの後何時まで飲むつもりなのかも知らないし、女の子の本当の名前も知らない。生産性は皆無で、めぼしい収穫だって特になし。でも我々三人は、この夜に幾度も乾杯した。

 取り急ぎおじさんが恋をしていることは間違いないみたいだし、なんだか楽しそうだからそれで良いような気がした。

 「恋は盲目」という言葉の本当の意味を、初めて知った夜の話。

SUPER BEAVER渋谷龍太

<第41回に続く>

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しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。2025年4月に結成20周年を迎え、SUPER BEAVER 自主企画「現場至上主義 2025」を4月5日、6日にさいたまスーパーアリーナで行い、さらに、6月20日、21日に自身最大規模となるZOZOマリンスタジアムにてライブを行うことが決定。

自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中